平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

ホリー・ジャクソン『卒業生には向かない真実』(創元推理文庫)

 大学入学直前のピップに、ストーカーの仕業と思われる不審な出来事がいくつも起きていた。無言電話や匿名のメールが届き、首を切られたハトが家の敷地で見つかったり、私道にチョークで頸のない棒人間を描かれたり。調べた結果、6年前の連続殺人との類似点に気づく。犯人は逮捕され服役中だが、ピップのストーカーの行為は、この連続殺人の被害者に起きたこととよく似ていた。ピップは自分を守るため調査に乗り出す。――この真実を、誰が予想できただろう? 『自由研究には向かない殺人』から始まった、ミステリ史上最も衝撃的な三部作完結!(粗筋紹介より引用)
 2021年、発表。2023年7月、邦訳刊行。

 『自由研究には向かない殺人』『優等生は探偵に向かない』と続くシリーズ完結編。序盤から前作のネタバレが出てくるので、前作を読むこと。前作も前々作のネタバレがあるので、結局は第1作から読むべきシリーズである。
 それにしても厚い。読んでも読んでも終わらない。そしてピップ自身が狙われているということも含め、雰囲気が非常に暗い。読めば読むほど暗くなってくる。だけど読むのを止められない。続きが非常に気になってしまう。
 ピップへのストーカー行為、そして6年前の連続殺人事件の謎についてはそれほど深いものではない。ただ、この作品のすごさはそこからの展開にある。『自由研究には向かない殺人』の登場人物がこういう方向に流れていくとは、想像もつかない。ただ、これでよいのか、と感じるところもあるが、それも含めて作者の狙い通りなのだろう。
 そして最後に、このシリーズを1作でも読んだ人は、本作の謝辞を絶対読んでほしい。作者がなぜこのシリーズを書こうと思ったのか。作者の想いと怒りは、ピップに投影されているに違いない。
 第1作のYA小説はどこへ行ったのかと戸惑う部分はある。大人向けのサスペンスといった方が近い本作品。しかし、YA小説ならではの終わり方だったなという思いはある。帯にある“ミステリ史上最も”は人それぞれだろうが、衝撃的な作品であったことは間違いない。本作品を読まずして、2023年の翻訳ミステリは語れない。そして、ピップとラヴィには幸せになってほしいと思わずにいられない。