平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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方丈貴恵『孤島の来訪者』(東京創元社)

孤島の来訪者

孤島の来訪者

  • 作者:方丈 貴恵
  • 発売日: 2020/11/30
  • メディア: 単行本
 

 謀殺された幼馴染の復讐を誓い、ターゲットに近づくためテレビ番組制作会社のADとなった竜泉佑樹は、標的の三名とともに無人島でのロケに参加していた。島の名は幽世島――秘祭伝承が残る曰くつきの場所だ。撮影の一方で復讐計画を進めようとした佑樹だったが、あろうことか、自ら手を下す前にターゲットの一人が殺されてしまう。一体何者の仕業なのか? しかも、犯行には人ではない何かが絡み、その何かは残る撮影メンバーに紛れ込んでしまった!? 疑心暗鬼の中、またしても佑樹のターゲットが殺され……。第二十九回鮎川哲也賞受賞作『時空旅行者の砂時計』で話題を攫った著者が贈る“竜泉家の一族”シリーズ第二弾、予測不能本格ミステリ長編。(粗筋紹介より引用)
 2020年11月、書き下ろし刊行。

 

 2019年の鮎川賞作家の第二作長編。まさか「竜泉家の一族」というシリーズになるとは思わなかった。とはいえ、前作との関りは、前作の舞台となった竜泉家の一人が出てくることと、冒頭と事件解決前に砂時計の「マイスター・ホラ」が語り手として登場するだけであり、前作を読まなくても十分に楽しむことができる。
 前作の感想で、「SF要素ががっちりとトリックや事件の謎に組み込まれると、自分が作ったルールで考えることになるので、たとえ伏線が張られていたとしても一般的には及びもつかない部分で謎解きされてしまうことになる」なんて書いたけれど、ごめんなさい、謝ります。特殊設定を用い、ここまでシンプルかつ大胆な本格ミステリを書くことができるとは思わなかった。
 特殊設定が何かを書くことはネタバレになるのでここでは書かないが、その特殊設定そのものがただのルール説明になっているのではなく、事件を解く謎になっているのは見事と思った。これだけ目の前に堂々と出されても、設定の説明なんだよなと思ってしまうと、事件の鍵を取り逃がしてしまう。秘祭伝承も事件に絡んでくるし、何気ない会話の中に事件の鍵が隠れているところもうまい。物語の最初から最後まで、伏線が張られているのには驚いた。最後の一文、してやられたと思ったね。
 主人公の竜泉佑樹が想像力強すぎる点がちょっと不思議。普通だったら考えもしない設定だよな、これ。ただ、マイスター・ホラによる読者への挑戦状は、特殊設定のすべてが明かされた以降になるので、問題ない。もしかして竜泉家、何か能力でもあるのだろうか。
 素直に脱帽です、ハイ。早くも来年度の本格ミステリベスト候補、出ましたね。傑作でした。