平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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五十嵐律人『魔女の原罪』(文藝春秋)

 法律が絶対視される学校生活、魔女の影に怯える大人、血を抜き取られた少女の変死体。一連の事件の真相と共に、街に隠された秘密が浮かび上がる。
 僕(宏哉)と杏梨は、週に3回クリニックで人工透析治療を受けなければならない。そうしないと生命を維持できないからだ。ベッドを並べて透析を受ける時間は暇で、ぼくらは学校の噂話をして時間を潰す。
 僕らの通う鏡沢高校には校則がない。ただし、入学式のときに生徒手帳とともに分厚い六法を受け取る。校内のいたるところには監視カメラが設置されてもいる。
 髪色も服装も自由だし、タピオカミルクティーを持ち込んだって誰にも何も言われない。すべてが個人の自由だけれども、〝法律〟だけは犯してはいけないのだ
。  一見奇妙に見えるかもしれないが、僕らにとってはいたって普通のことだ。しかし、ある変死事件をきっかけに、鏡沢高校、そして僕らが住む街の秘密が暴かれていく――。
『法廷遊戯』が映画化され注目を集める現役弁護士作家の特殊設定リーガルミステリー。(粗筋紹介より引用)
 2023年4月、書下ろし刊行。

 五十嵐律人を読むのは初めて。本屋で表紙に魅かれ、なんとなく手に取ってみた。
 実際に殺人事件が起きるのは中盤あたり。それまでは、法律を犯さないということを除けば校則がない高校に通う二年生、和泉宏哉が中心である。中盤の変死事件からは、作者の得意といえるリーガルミステリに移り、迫力のある裁判シーンと驚愕の真実が待ち受けている。
 校則がなく、法律さえ守ればいい高校という設定は面白い。責任と義務を考えるうえでも非常に興味深い設定である。そして変死事件から少しずつ明らかになる町の真実。その内容は完全なネタバレとなるのでここでは書けないが、日本社会のいびつな部分の一つを取り上げており、しかも物語の謎と絡める巧さは、社会派ミステリとしての要素も十分に兼ね備えた作品に仕上がっている。伏線の張り方とその回収も鮮やか。現役弁護士ならではの裁判シーンの迫力も見事。そして法律知識の説明を随所に、しかし物語の流れをぶった切らずに組み込むところも巧い。
 ただ、この変死事件の動機がいただけない。一応伏線は貼っている。だが専門家が本当にこんなことを考えるだろうか。いくら悩んでいたとしても、信じられない。残念だが、説得力に欠ける。肝心要の部分なので、もっと配慮してほしかった。別の動機にしてほしかった。
 どう評価したらよいか、迷ってしまう。凄く納得がいかない。ただ、面白かったのも事実。