平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

宮部みゆき『小暮写眞館』(講談社)

小暮写眞館 (書き下ろし100冊)

小暮写眞館 (書き下ろし100冊)

三雲高校1年の花菱英一の両親、秀夫・京子夫妻は、結婚に十周年を機にマイホームを購入した。ところがその家は、築33年の木造二階建て、一部タイル張り。そこはかつて「小暮写真館」という写真館だった。八歳年下の弟・光、小学校からの友人・店子力、家を紹介したST不動産の須藤社長や女性事務員の垣本順子などとの付き合いの中、不思議な事件を解く。

英一が心霊写真の謎を解く「第一話 小暮写真館」。

バレー部OGの家の一枚の写真で、一方では笑ったOG、両親、後輩が、その後ろではOGと両親が泣いていた。写真の謎の解決を依頼される英一。「第二話 世界の縁側」。

不登校状態の子供たちが学ぶフリースクール三つ葉会」の7人の写真で、1人が持っていた謎のぬいぐるみを、本人はカモメといった。「第三話 カモメの名前」。

祖父の危篤から端を発した花菱夫妻の離婚騒動。6年前に4歳で亡くなった妹・風子。光が会いたがっている相手は。そして英一と順子の関係は。「第四話 鉄路の春」。

2010年5月、書き下ろし刊行。



執筆1年半、3年ぶりの現代作品となった本作。すでに潰れた「小暮写真館」を舞台に、英一たちの苦しみや悩み、そして成長を描いた作品となった。

それにしても宮部みゆきは、少年を主人公とした作品を描くのが、本当に巧い。ショタコンじゃないのか、などと余計なツッコミをしたくなるのは置いておき、どうしてこの人は少年の心情をこれだけうまく描けるのだろうと、不思議になってくる。

一応日常の謎はあるものの、主題はあくまで英一たちの心情と成長。第一話の伏線が最終話でしっかりと回収され、物語の主題であることがわかり、読者の感動を巻き起こす。

正直言って700頁は長い。当代一の人気作家がよくぞここまで書下ろしで書けるな、と不思議に思ったが、読み終わってみると納得。登場人物の心情を丁寧に描くと、どうしてもこれぐらいになってしまうなと思わせる内容だった。まあ、途中、読んでいて苦しい部分があったのも事実だが。第二話あたりは、もうちょっと何とかならなかったか。

久しぶりに宮部みゆきを読んだが、やっぱり何を読んでも面白い作家だと思った。ここの所ご無沙汰だったが、また手に取ってみようと思う。大作もいろいろあることだし。