平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ピーター・スワンソン『だからダスティンは死んだ』(創元推理文庫)

 そのふた組の夫婦は、よく晴れた風の強い日に、屋外パーティーで知り合った。――版画家のヘンは、夫のロイドとともにボストン郊外に越してきた。パーティーの翌週、二人は隣の夫婦マシューとマイラの家に招待される。だがマシューの書斎に入ったとき、ヘンは二年半前のダスティン・ミラー殺人事件で、犯人が被害者宅から持ち去ったとされる置き物を目にする。マシューは殺人犯だと確信したヘンは彼について調べ、跡をつけるが……。複数視点で語られる物語は読者を鮮やかに幻惑し、衝撃のラストへなだれ込む。息もつかせぬ超絶サスペンス!(粗筋紹介より引用)
 2019年、発表。作者の第五長編。2023年1月、創元推理文庫より邦訳刊行。

 版画家、児童書の挿絵画家であるヘンリエッタ(ヘン)・メイザー。その夫で広告業者の会社員であるロイド・ハーディング。隣に住んでいるのは、サセックス・ホール高校の教師であるマシュー・ドラモアと、その妻で教育ソフトウエア会社の社員であるマイラ・ドラモア。ロイドとヘンがマシューたちの家に招待された時、ヘンはマシューの書斎でフェンシングのトロフィーを見つけて気を失いそうになる。そのトロフィーは、二年半前に殺された大学生ダスティン・ミラーの部屋から盗まれたものの一つだったからだ。そしてダスティンは、サセックス・ホール高校の卒業生であった。
 最初はヘンとマシューの視点が交互に変わりつつ、物語は進む。ヘンはマシューを疑い、マシューはそのことを知っている。さらにマイラ、ロイド、そしてマシューの弟・リチャード・ドラモアの視点も加わる。この場面転換の切り替えが非常に巧みで、物語が進むにつれてサスペンスが増し混迷が深まっていく展開は見事というしかない。
 疑う人物と疑われる人物。それを取り巻く人物たち。登場人物たちが傷と闇を抱えており、そのことが物語に複雑さを増していく。読者の予想できない展開、そして読者の予想できない登場人物の行動。結末までノンストップで物語は進み、さらに肩透かしを食らったと思った瞬間に新たな驚愕が待ち受けている。
 タイトルのつけ方も巧い。原題は"Before She Knew Him"。邦題は『だからダスティンは死んだ』。このどちらもセンスにあふれている。それは読み終わってみると、納得するだろう。
 早くも今年のベスト候補登場といってもいいだろう。過去のスワンソンの作品は『そしてミランダを殺す』『アリスが語らないことは』しか読んでいないが、その二作よりも面白かった。