平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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白井智之『そして誰も死ななかった』(角川文庫)

 覆面作家天城(あまき)菖蒲(あやめ)の招待で、絶海の孤島に建つ天城館に集まった5人の推理作家。しかし館に主の姿はなく、食堂には不気味な5体の泥人形が並べられていた。不穏な空気が漂う中、かつて彼ら全員が晴夏という女性と関係していたことがわかる。9年前に不可解な死を遂げた彼女の関係者が、なぜ今になって集められたのか。やがて作家たちは、次々と異様な死体で発見され――。ミステリ界の鬼才が放つ、絶対予測不可能な謎解き!(粗筋紹介より引用)
 KADOKAWAより2019年9月、単行本刊行。加筆修正のうえ、2022年1月、文庫化。

 世界中から貧しい女を日本へ連れ帰って囲っていた、ろくでなしの文化人類学者錫木帖が遺した推理小説の原稿を自分の名前で出版してベストセラーとなった大亦(おおまた)牛男は、自分のファンだという大学四年の晴夏と関係を結ぶも、彼女の嘘に激昂して突き飛ばし、壁の鏡が割れ、とがった破片が晴夏の首に深々と刺さった。しかし晴夏は平気な顔をしたまま二回戦目をねだり、恐ろしくなった牛男はそのまま逃げた。それから7日後、晴夏がトラックに轢かれて死亡する。現場にはミミズみたいな虫が大量発生していた。そして交際相手で晴夏を暴行した友人の推理作家榎本桶が逮捕された。
 それから10年後。覆面作家天城菖蒲に5人の推理作家が招待された。金鳳花(きんぽうげ)沙希(さき)四堂(よんどう)饂飩(うどん)阿良々木(あららぎ)(あばら)真坂(まさか)斉加年(まさかね)、そして大亦牛汁(うじゅう)こと牛男。東京湾からチャーター船で丸一日かかる無人島、条島に向かったが、天城館に天城の姿はなく、食堂には十年前に大量死したミクロネシア先住民族・奔拇族が儀式に用いた「ザビ人形」が5体並べられていた。
 グロいグロいと聞いていたので手を出さなかった作家であったが、『名探偵のいけにえ』『名探偵のはらわた』が面白かったので、食わず嫌いは止めて手を出してみたのだが……グロい。不気味じゃなくてグロい。気持ち悪いわ、本当に。
 序盤の気持ち悪すぎる設定と展開。そして覆面作家に招待された推理作家たちの異様なこと。さらに無人島の館での連続殺人。本格ミステリファンなら興味を持ちそうな設定だけど、とにかく気持ち悪くかったので、早く読み終えようと思ってページを進めてしまう。そうしたら連続殺人事件の後は、怒涛の推理合戦。本来だったらワクワクするところなんだが、登場人物も設定も描写も事件の状況もとにかくグロテスクなので、真剣に読もうという気が失せてくる。ある意味凄い推理合戦なのだが。まあ、ここまで異様な設定だからできた、とんでもない推理合戦ではあった。好きな人なら一読の価値はあるのだろうな。
 ただ、力で強引にひねくり回す推理なので、振り返ってみると投げっ放しになっている謎がいっぱいあるような気がする。特に最後。こいつらどうなるんだろう。ただ、振り返る気にならない。思い出したくない描写が多すぎる。そしてその後も考えたくない。
 謎解きの強引さはすごい。グロ表現が気にならない本格ミステリファンなら、楽しめる。それでも、食後すぐには読まない方がいいだろう。