平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ドロシー・L・セイヤーズ『学寮祭の夜』(創元推理文庫)

学寮祭の夜 (創元推理文庫)

学寮祭の夜 (創元推理文庫)

探偵作家のハリエットは、かつての級友の頼みに応えるべく、遠ざけてきた母校オックスフォード大の学寮祭に出席した。醜聞の歳月を経て、訪れた学舎。複雑な感慨に心は乱れたが、その夜、けがらわしい絵を描いた紙切れを、カレッジの方庭の片隅に見つける。さらに翌日、学友の袖に卑劣な中傷の手紙が忍ばされていた。苦い思いでロンドンに戻ったハリエットだが、数ヶ月後恩師から助力を請う便りが届いた。匿名の手紙と不快な悪戯が学内を震撼させているというのだ……。陰に潜む悪意の主を割り出す、ピーター卿の明晰な推理。英国黄金時代有数の大長編として屹立する、著者畢生の力業!!(粗筋紹介より引用)

1935年11月、刊行。1936年6月、『大学祭の夜』のタイトルで春秋社より抄訳刊行。2001年8月、新訳刊行。



『大学祭の夜』というタイトルだけは有名で、気になっていた。多分、ミステリファンなら当時、誰でも手に取ってみたいと思っていただろう。セイヤーズといえば邦訳しにくい作家の代表格だった気がする。完訳なんて絶対出ないだろうと思っていたら、浅羽莢子が第一作から訳し始めたので、この作品もいずれ訳されるだろうとは思っていた。まさに待望の一冊、というところだろう。しかし新刊で買いながら今頃読むのはなぜだ(苦笑)。

しかしこんな作品だとは夢にも思わなかった。手に取ってみると、とにかく厚い。文学などの知識がないと訳せないような引用なども相変わらず。それに、殺人事件すらないとは思わなかった。結局ピーターとハリエットの恋愛小説に終わるし、なんて思ってしまった。それでも時間をかけて読むだけの本だったとは思う。ただ、それにしても厚かったなあ。

はっきり言って、ミステリの部分はあまり印象に残っていない。何なんだ、このカップル、みたいな印象の方が強い。それでも目を離せない作品ではあった。いや、それ以外何を言ったらいいんだ、これに。シリーズキャラクター小説、ならではの作品。それをミステリでやってしまうところに意義がある……のか。