- 作者: 麻耶雄嵩
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2010/09
- メディア: 単行本
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2010年9月、書き下ろしで発売。第64回日本推理作家協会賞、第11回本格ミステリ大賞受賞。
麻耶雄嵩、5年ぶりの長編はシリーズものではなく、新たに御陵みかげという少女を名探偵に据えた本格ミステリ。私自身が麻耶雄嵩を読むのは9年ぶり。読んでいて驚いたのは、いつの間にこんなに文章がまともになったのだろうということ。かつての癖のある文章は影を潜め、とても読みやすい作品となっている。
今回はメルカトル鮎や木更津などのシリーズものではなく、新たに隻眼の少女、御陵みかげが名探偵としてデビューする。しかも初めての事件で推理を失敗し、助手見習いの男性種田静馬と結ばれ、父親は殺害され、ようやく解決するも静馬と別れ旅立ってしまう。こうやって読むと、本格ミステリファンならずともワクワクする設定ではないか。そして、それにふさわしい推理が繰り広げられる。特に最初の静馬への容疑者扱いに対する警察へのロジックはお見事としか言いようがない。これは麻耶の代表作となるか、そう期待した。
ところが第二部が始まると、色々な意味で裏切られる。18年後に起こる全く同じ首切りの方法で殺害される少女。それは、当時の犯人が生きていること、当時のみかげの推理が誤っていたことを示すものである。これ以上描くとネタバレになるからここで止めておくが、それにしてもこの展開はよくぞ考えたといってよい。読み終わってみると、色々な意味で本格ミステリの常識の裏をかき、それでいて本格ミステリであるという世界を構築している。見事なくらいアクロバティックな構成だとはいえるが、問題はその裏をかいた方法があまりにもちゃちだったところだろうか。それも含めて、本格ミステリファンを裏切ろうとしているのなら、作者の術中にはまっているのだろうが。
まあ、確かに当時大絶賛されたのはよくわかる。解決後のもやもや感も、最後はキャラクターに救われるようにしているのも、巧みである。読み終わってみると、作者が『翼ある闇』のころからやろうとしていることに変わりがないことがよくわかった。