平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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エドワード・D・ホック『フランケンシュタインの工場』(国書刊行会 奇想天外の本棚)

フランケンシュタイン』+『そして誰もいなくなった』……ホラー、ミステリの「優良物件」を名匠がどう料理するのか!?(山口雅也
 メキシコのバハ・カリフォルニア沖に浮かぶホースシューアイランド、この島に設立された国際低温工学研究所(ICI)の代表ローレンス・ホッブズ博士は、極秘裏にある実験計画を進めていた。長期間冷凍保存していた複数の体から外科手術によって脳や臓器を取り出して殻(シェル)となる体に移植し、人間を蘇らそうというのだ。
 コンピュータやテクノロジーに関するあらゆる犯罪を捜査するコンピュータ検察局(CIB)は、ICIの活動に疑念を抱き、捜査員アール・ジャジーンをこの手術の記録撮影技師として島に送り込む。潜入捜査を開始したジャジーンだったが、やがて思わぬ事態に直面する。手術によって「彼」が心拍と脈拍を取り戻した翌朝、ICIの後援者エミリー・ワトソンが行方不明となり、その後何者かによって外部との連絡手段を絶たれたこの孤島で、手術のために集められた医師たちが一人、また一人と遺体となって発見される。
 現代ミステリの旗手ホックが特異な舞台設定で描くSFミステリ〈コンピュータ検察局シリーズ〉最終作。本邦初訳。(粗筋紹介より引用)
 1975年発表。2023年5月、邦訳刊行。

 カール・クレイダーとアール・ジャジーンが活躍する、21世紀のコンピューター社会を舞台にしたSFミステリー「コンピュータ検索局シリーズ」最終作。短編の名手である作者は、Wikipediaによると長編を6作しか書いていないが、そのうちの3作がコンピュータ検索局シリーズである。
 山口雅也が言うには、ホック長編作品で唯一未訳、さらにアマゾンUSAのレイティングで★一つの酷評と憤っている。しかし自身の評はない。
 メキシコのホースシューアイランドで行われた、外科手術による人間復活。まさに『フランケンシュタイン』みたいな復活劇なのだが、そこに集められた医者たちが一人、また一人と殺されてゆく。まさに『そして誰もいなくなった』のように(作品中でも言及されている)。
 コンピュータ検察局シリーズを読んだことがないのでよくわからないのだが、SFやコンピュータに関する特殊な知識が必要というわけではない。人工冬眠も今では実際に開発されているし、読んでいて戸惑うようなものは特になかった。
 ただ、はっきり言って★一つという評価はわからないでもない。本当に『フランケンシュタイン』+『そして誰もいなくなった』なストーリーなのだが、あまりにも通俗的。登場人物のいずれもが俗人過ぎるし、事件に挑むアール・ジャジーンは手術助手のヴェラ・モーガンと関係を結ぶことに頭がいっちゃってる。連続殺人事件中に何をやってんだと言いたい。閉ざされた島で人が一人ずつ殺されていくわりには恐怖感が全然漂ってこない。これもそれも、登場人物があまりにも俗すぎるから。人造人間の“フランク”も曖昧な立ち位置のままで、フランケンシュタインのような恐ろしさと哀愁は伝わってこない。読んでいくうちにどんどん意気消沈してしまった。
 それでもテンポよく進むので読むことができるのはホックならではの腕であろうが、最後まで読むとがっかりしてしまう。連続殺人事件の結末がこれでは、ミステリとしてのカタルシスは全く得られない。
 今まで未訳だったというのはなんとなくわかる。もしこれを書いたのがホックじゃなかったら、翻訳されていなかっただろう。珍作レベルでしかなかったな。