アニメーション作家の鈴木伸一氏は、トキワ荘で若手漫画家たちと交流しながらアニメーターの道に進み、90歳を迎える現在も新作づくりに取り組んでいます。本書は藤子不二雄作品に登場する「小池さん」のモデルとしても知られる鈴木氏が、自身の活動や仲間との出会いと交流を語ったエッセイです。アニメーターとしての鈴木氏に大きな影響を与えた3人の恩人、手塚治虫・横山隆一・中村伊助のこと、素人の状態から試行錯誤しながらアニメ技術を磨いたおとぎプロの時代、トキワ荘の仲間だった藤子不二雄、石ノ森章太郎、 赤塚不二夫、つのだじろうらとアニメ制作会社スタジオゼロを立ち上げた時の抱腹絶倒の出来事など、アニメ界の重鎮だからこその貴重なエピソードが、これまた貴重な写真や資料とともに披露されます。また、鈴木氏はいかにして「小池さん」になったのか、その誕生秘話も貴重です。(作品紹介より引用)
「1章 少年時代」「2章 上京してトキワ荘の住人になる」「3章 おとぎプロでアニメ制作を学ぶ」「4章 トキワ荘の仲間とスタジオゼロを設立」「5章 個人事務所としてのスタジオゼロ」「6章 楽しい仲間たちとの出会いと別れ」「7章 次世代に伝えたい僕が好きなアニメ作品」を収録。2023年6月、刊行。
新漫画党のメンバーであり、トキワ荘の元住人であり、藤子漫画に出てくるラーメン大好き小池さんのモデルであり、日本アニメーションの重鎮である鈴木伸一。そんな作者が、生まれから今までの自信の活動や出会った仲間たちを語ったエッセイ。今までいろいろなところで語ったり書いてきたりした内容をまとめたような一冊。鈴木伸一の集大成と言ってもいいかもしれない。
トキワ荘時代のエピソードは聞いたものが多いけれど、鈴木伸一の視点で見るとまた新しいエピソードのように思えて面白い。また、第一次新漫画党解散の原因となったのが締め切りの話だったというのは初めて聞いた。合作で揉めた件は知っていたけれど、こういう話だったんだね。おとぎプロ、スタジオゼロと、手塚治虫とは異なる当時のアニメーション業界の話が聞けるのも貴重。
やはりというか、藤子不二雄両氏に関するエピソードが一番長かった。特に藤子A氏は長い長い付き合いだっただろうから、もっと色々語りたいことがあるだろうにとは思ってしまう。
エッセイの語り口がどことなくのんびりしていて、そして優しくて。ご本人にお会いしたことはないけれど、人柄がそのまま出ていると思われる文章だった。それが何とも心地よくて。そしてご家族のことがほとんど語られないのも、なんとなくシャイなところが見え隠れした。
あの頃のトキワ荘、黎明期のアニメーションを語れる人がどんどん減ってきた。鈴木氏にはこれからも頑張ってほしいと思う。それと、鈴木氏のアニメ集成なんかも映像で出てくれませんかね。