平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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マーティ・ウィンゲイト『図書室の死体』(創元推理文庫)

 わたしはイングランドの美しい古都バースにある、初版本協会の新米キュレーター。この協会は、アガサ・クリスティなどの初版本の収集家だった故レディ・ファウリングが設立した。事務局は彼女の住まいだった館にあり、図書室にはその膨大なコレクションが所蔵されている。自分がこの職にふさわしいと証明しようと試行錯誤していたところ、ある朝、図書室でなんと死体が発見される。被害者は、勉強会で館を使っていた創作サークルのひとりだった……。本を愛する人に贈る、ミステリ・シリーズ第1弾!(粗筋紹介より引用)
 2019年、アメリカで発表。2022年6月、創元推理文庫より邦訳刊行。

 作者はシアトル生まれで、現在はシアトル近郊在住。ガーデニングのハウツーものを3冊発表し、園芸関連の記事を多数執筆。2014年、イングランドを舞台にテキサス出身の園芸課が活躍するコージーミステリ"The Garden Plot"でデビュー。同作を第一弾とするPotting Shed Mystery(園芸小屋ミステリ)シリーズは、中編1作を含む9作品を発表。並行してイギリスの田舎の観光案内所の責任者である、著名鳥類学者の娘を主人公にしたBrids of a Feather Mystery(類は友を呼ぶミステリ)シリーズを4作発表。他にノンシリーズ作品も発表している。
 本作品は、イングランド南西部の古都バースにある、初版本の蒐集家で三年前に94歳で亡くなった故レディ・ジョージアナ・ファウリングが設立した「初版本協会」が舞台。レディが自宅だったミドルバンク館に事務局があり、図書室にはクリスティやセイヤーズデュ・モーリアなどの初版本(サイン含む)が蒐集されている。レディの親友で個人秘書だった60歳前後のグルニス・ウルガーが終身事務局長を務めている。
 主人公は新米キュレーターである40代半ばのヘイリー・バーク。別の団体のアシスタント・キュレーターのアシスタントであったが、友人であり協会理事のアデル・バベッジに誘われ、空席だったキュレーターとなったのだ。ただ、今までミステリは一度も読んだことがなく、それがばれないようにふるまっている。離婚した夫との間に、離れて暮らす大学生ダイナがいる。母レノーアは介護サービス付き住宅に住んでいる。
 ミドルバンク館は地上四階地下一階で、一階にはミセス・ウルガーとヘイリーのそれぞれ独立した執務室とミニキッチンとトイレ。二階は初版本図書館となっている図書室。三階はヘイリーの住むフラット。四階は屋根裏部屋。地下一階はミセス・ウルガーの住むフラットだが、館は斜面に建てられているので、庭にそのまま出ることができる。
 ヘイリーは協会を存続可能な成長事業へ発展させるための第一歩として、クリスティなどのミステリの二次創作サークルのメンバーを招き、無料で勉強会を開かせることにした。ある日、その主催者のトリスト(トリストラム)・カミンズが図書室で殺害された。
 シリーズ第一作、さらに作者の本邦初訳ということで設定を細かに書いてみた。実はヘンリーの日常の方にページが割かれているので、事件の方はあまり書くことがない。正直言って退屈。このヘンリー、ミステリを読んだことはないというのはまだいいが、『書斎の死体』を読んで名探偵気取りで事件に挑むというのはおめでたすぎる。恋人ウゥン・ランドルとのやり取りも、取ってつけた感しかない。
 作者は黄金時代のミステリとイギリスをこよなく愛しているということだが、その愛が面白さにつながっていないな。物語の面白さよりも、作者が書きたいことを優先している。
 「初版本図書館の事件簿」シリーズということですでに3作書かれていて、次作も邦訳予定とのことだが、自分は手に取る気にならない。退屈だった。