平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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倉知淳『月下美人を待つ庭で 猫丸先輩の妄言』(創元推理文庫)

 猫丸という風変わりな名前の“先輩”は、妙な愛嬌のよさと人柄をもち、愉快なことには猫のごとき目聡さで首をつっこむ。そして、どうにも理屈の通らない謎も彼にかかれば、ああだこうだと話すうちにあっという間に解き明かされていくから不思議だ。悪気なさそうな闖入者たちをめぐって温かな読後感を残す表題作や、電光看板の底に貼り付けられた不規則な文字列が謎を呼ぶ「ねこちゃんパズル」、一見変哲のない写真を巡って恐るべき推理が提示される「恐怖の一枚」など全五編を収録。日常に潜む不可思議な謎を、軽妙な会話と推理で解き明かす連作集。(粗筋紹介より引用)
 『ミステリーズ!』Vol.97~101掲載(2019~2020年)。2020年12月、東京創元社より単行本刊行。2023年3月、文庫化。

 猫丸先輩シリーズ最新刊であるが、前作『猫丸先輩の空論』から15年ぶりの新刊だったとのこと。単行本が出ていたことには気付かず、本屋で文庫本を見て懐かしくなって購入したのだが、そんなに時間がたっていたのかと驚きである。
「ねこちゃんパズル」「恐怖の一枚」「ついているきみへ」「海の勇者」「月下美人を待つ庭で」の5編を収録。
 久しぶりとなる猫丸先輩シリーズであるが、猫丸先輩の容姿も性格も変わっていない。不思議な日常の現象に猫丸が合理的に見える解決を示すのだが、本人が言う通りそれが本当かどうかはわからないし、煙に巻かれたまま終わってしまうところも相変わらず。そういう意味では、どれから読んでも面白く読めるし、後味もいいまま何も残らずに終わってしまうところも変わっていない。それでも「恐怖の一枚」のようにホラーなテイストを入れてくるところを見ると、作者もたまにはアレンジしようと考えているのかもしれない。
 どれか一つと言われると、やはり表題作の「月下美人を待つ庭で」である。このシリーズにしては無理のない推理が繰り広げられるし、読後の余韻がまた格別。猫丸先輩シリーズの中でも上位に位置する作品だと思う(他は何だと聞かれても思い出せないが……)。
 久しぶりに会えただけで満足、そんな一冊。猫丸だけじゃなく、久しぶりに会いたい探偵、いっぱいいるけどなあ……。