平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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アンソニー・ホロヴィッツ『カササギ殺人事件』上下(創元推理文庫)

カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)

カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)

 
カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)

カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)

 

  1955年7月、サマセット州にあるパイ屋敷の家政婦の葬儀が、しめやかに執りおこなわれた。鍵のかかった屋敷の階段の下で倒れていた彼女は、掃除機のコードに足を引っかけて転落したのか、あるいは……。その死は、小さな村の人間関係に少しずつひびを入れていく。燃やされた肖像画、屋敷への空巣、謎の訪問者、そして第二の無残な死。病を得て、余命幾許もない名探偵名探偵アティカス・ピュントの推理は――。現代ミステリのトップ・ランナーによる、巨匠クリスティへの愛に満ちた完璧なるオマージュ・ミステリ!(上巻粗筋紹介より引用)


 名探偵アティカス・ピュントのシリーズ最新作『カササギ殺人事件』の原稿を結末部分まで読み進めた編集者のわたしは激怒する。ミステリを読んでいて、こんなに腹立たしいことってある? 勤務先の《クローヴァーリーフ・ブックス》の上司に連絡が取れずに憤りを募らせるわたしを待っていたのは、予想もしない事態だった――。ミステリ界のトップ・ランナーが贈る、全ミステリファンへの最高のプレゼント。夢中になって読むこと間違いなし、これがミステリの面白さの原点!(下巻粗筋紹介より引用)
 2017年、発表。2018年9月、創元推理文庫で邦訳刊行。

 作者のアンソニーホロヴィッツは、ヤングアダルト向けの《女王陛下の少年スパイ! アレックス》シリーズがベストセラーになったほか、人気テレビドラマ『刑事フォイル』『バーナビー警部』の脚本を手掛けており、本書はYA向け以外で初めて書いたオリジナルミステリとのこと。
 今頃読むか、といった感じだが、実は1年前に買って読み始めていた。しかしなかなかページが進まず、いつしか読むのを止めてしまっていた。理由は簡単、上巻の前半部が退屈だったからだ。作中作の形になっているのだが、上巻はほとんどが人気推理小説作家アラン・コンウェイの新作『カササギ殺人事件』となっている。クリスティのオマージュになっているが、クリスティってこんなに退屈だったっけ?と思うぐらい、退屈だった。イギリスの田舎町で殺人事件が起きるのはいいのだが、ポワロやミス・マープルと違い、作中シリーズ探偵のアティカス・ピュントがあまりにも地味で人間的魅力に乏しい。読むのが苦痛だった原因はそれだろう。平和そうな舞台に渦巻く人間模様が明るみになっていくにつれ、物語がようやく面白くなっていく。そして下巻はアラン・コンウェイの謎に迫っていくのだが、ここまでくると逆にページをめくるのがもどかしくなるぐらい面白い。そして、懐かしい、あまりにも懐かしい黄金時代の本格推理小説を堪能することができる。これは見事。古いけれど懐かしい味で、そのくせ現代の調理法も楽しむことができる。
 正月休みで読み直し始め、一気にエンジンがかかりました。休みの日に一気に読むべきだったな、これは。次の休みには、次作を読まないと。