平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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矢樹純『夫の骨』(祥伝社文庫)

 昨年、夫の孝之が事故死した。まるで二年前に他界した義母佳子の魂の緒に搦め捕られたように。血縁のない母を「佳子さん」と呼び、他人行儀な態度を崩さなかった夫。その遺品を整理するうち、私は小さな桐箱の中に乳児の骨を見つける。夫の死は本当に事故だったのか、その骨は誰の子のものなのか。猜疑心に囚われた私は…(『夫の骨』)。家族の“軋み”を鋭く捉えた九編。(粗筋紹介より引用)
 『月刊群雛』2015年12月号に掲載された「鼠の家」、2016年7月にKindle個人出版の『かけがえのないあなた』に収録した「朽ちない花」「柔らかな背」「ひずんだ鏡」「虚ろの檻」に、書下ろし「夫の骨」「絵馬の赦し」「ダムの底」「かけがえのないあなた」の計九編を収録。2019年4月、祥伝社文庫より刊行。2020年、「夫の骨」で第73回日本推理作家協会賞短編部門受賞。

 作者は妹の漫画家・加藤缶との共同ペンネーム「加藤山羊」で2002年にデビュー。以後、漫画原作者として活躍。2013年12月からは「作画:加藤山羊/原作:矢樹純」と表記を変更。代表作『あいの結婚相談所』は山崎育三郎主演でドラマ化されている。2012年8月、『Sのための覚え書き かごめ荘連続殺人事件』が第10回『このミステリーがすごい!』大賞の隠し玉として出版され、作家デビューしている。
 全九編はいずれも家族間の揉め事が動機となった事件と、その意外な顛末となっている。収録順番は「夫の骨」「朽ちない花」「柔らかな背」「ひずんだ鏡」「絵馬の赦し」「虚ろの檻」「鼠の家」「ダムの底」「かけがえのないあなた」
 表題作「夫の骨」は一番目に載っているが、これは見事。読み終わって本当に震えがきた。協会賞受賞も納得の出来である。ただ、全部同じような展開なんだよな。もちろん設定も舞台も登場人物も全部違うのだが、根幹が同じ。それも人の悪意が最後に浮き彫りになるような作品ばかりなので、読んでいて疲れる。精神的にも。
 後味の悪い作品ばかりなので、まとめて読むことは避けた方がいい。一編ずつ間を置きながら読めば、もう少し感想は違ったものになるかもしれない。ただ、表題作は傑作。これだけでも、本書を読む価値はある。