明治二十六年、杉山潤之助は、旧知の
2014年8月、光文社より書下ろし刊行。2017年11月、光文社文庫化。
『伊藤博文邸の怪事件』に続く探偵
事件が起きたは、山縣有朋の元側近と噂され、政界の黒幕でもある漆原安之丞の大邸宅・黒龍荘。脅迫状が届き、漆原本人はすでに首のない死体で発見されている。黒龍荘には他に秘書、友人の医者、病気で座敷牢に閉じ込められている従兄弟、そして4人の妾が住んでいる。漆原の妻は1年前、用心棒の男とともに失踪していた。杉山と月輪は黒龍荘に泊まり込み、さらに警察が周りを警備しているにもかかわらず、次々と殺人事件が発生。しかも漆原の村に伝わる不気味なわらべ唄をなぞるように。
明治時代の大屋敷を舞台にした見立て殺人。本格ミステリファンなら震えて喜びそうな設定である。謎の連続殺人事件が発生し、警察も探偵も翻弄される。おまけに歴史上の人物も物語に絡み、歴史的事実や明治政府の舞台裏が絡んでくるのだから、期待するのも当然だろう。途中までは実に読み応えがあった。しかし読み終わってみると、なんか違う、と言いたくなる終わり方だった。
はっきり言って、とんでもない結末である。手口としては現実の事件例もあるから可能ではあるだろうが、推理する手がかりはどこに見当たらない。一応それらしい情報はあるけれど、この結末までつなぐエレメントがない。月輪がここまでどうやって推理できたのか、よくわからない。
道具立ての面白さに比べ、トリックや解決が物足りない、というか説得力が今一つ。本格ミステリのカタルシスを得られる作品ではなかった。しかしまあ、形容しづらい作品ではあった。怪作とはいえるだろう。アクロバティックではない奇妙な難易度の大技を見ることができる作品ではある。