大学二年生の
第3章までは【出題編】として『小説現代』2022年4月号掲載。第4章、5賞、エピローグを書き足して、2022年5月刊行。
2012年にメフィスト賞座談会に掲載された『朝凪水素最後の事件』、2019年に第29回鮎川哲也賞最終候補となった同名作品(応募時ペンネーム天童薫)をプロトタイプに全面的に改稿した作品、とのこと。作者は2018年、『ゼロの戦術師』(電撃文庫)でデビュー。複数のシリーズを出版している。現役の薬剤師とのこと。
摩訶不思議な奇蹟的大犯罪で大衆を魅了した「怪盗王」と呼ばれる久遠寺写楽と、写楽を捕えようとする全国各地の素人探偵が退治した「大探偵時代」。怪盗王の活躍に誰もが敵わなかった頃、突如として現れた高校生探偵、「欠陥探偵」こと神薙虚無。怪盗王と欠陥探偵とその仲間たちとの戦いは、御剣大が12冊の本にまとめてベストセラーとなった。そして最後の話が『神薙虚無最後の事件』。この本にだけ、作中の事件の解決が記されていなかった。それから1か月後、実在するはずの怪盗王も欠陥探偵も架空の存在だったとことがすっぱ抜かれ、炎上。神薙虚無の戸籍もなく、実際に会った人もいなかった。
東雲大学の先輩後輩で、同じアパートの隣同士である
作中作『神薙虚無最後の事件』を読んで、密室殺人事件と最後の消失の謎を議論する多重解決ミステリ。20年前の事件で真相がわからないはずなのに、解決に挑んで推理を繰り広げるというのは、本格ミステリ好きならでは。
作中作のキャラクターは作られ過ぎていて、短い内容なのに読むのが大変。おまけにわざとらしいくらいの描写も続くし。一方20年後となる現実の登場人物も、金剛寺煌は巨大コングロマリットグループ総帥の孫娘、かつ天才で、当時の警察資料も簡単に手に入れてきてしまうのだから、いやはや。他の登場人物も何かありそうな面々だし、
ということで、現実感が欠片もない舞台設定と登場人物。そして装飾過多な世界観。目の前には、現実に会ったとはとても思えないような、20年前の未解決事件。ある意味馬鹿馬鹿しい作品ではあるが、そこに挑戦状を叩きつけられたら挑まなければならない。それが名探偵であり、名探偵の信奉者であり、そして本格ミステリの読者なのである。
ということで、好きな人だけ読んで、満足すればいい作品。しかし伏線は丁寧に張られていて推理しやすいようにはなっているし、読者がアッと言いたくなるような(見え見えだったけれど)展開と、全ての謎に解決を用意した、後味のよい結末が待っている。設定と登場人物さえ許容してしまえば、面白く読める。
帯の推薦文が辻真先、麻耶雄嵩、奈須きのこ、今村昌弘。他に青崎有吾、阿津川辰海、城平京、知念実希人の推薦文もある。こういう人工的な本格ミステリ、好きな人にはたまらないかもしれない。鮎川賞関連の落穂拾いで読んだのだが、意外に楽しむことができて、満足している。
あまり続編には期待しないが、せめて白兎と志希が結ばれる作品ということでもう1冊くらいは読んでみたいものだ。