平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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アンソニー・ホロヴィッツ『メインテーマは殺人』(創元推理文庫)

メインテーマは殺人 (創元推理文庫)

メインテーマは殺人 (創元推理文庫)

 

  自らの葬儀の手配をしたまさにその日、資産家の老婦人は絞殺された。彼女は自分が殺されると知っていたのか? 作家のわたし、アンソニーホロヴィッツは、ドラマ『インジャスティス』の脚本執筆で知りあったホーソーンという元刑事から連絡を受ける。この奇妙な事件を捜査する自分を本にしないかというのだ。かくしてわたしは、きわめて有能だが偏屈な男と行動をともにすることに……。ワトスン役は著者自身、謎解きの魅力全開の犯人当てミステリ! 7冠制覇『カササギ殺人事件』に並ぶ圧倒的な傑作登場。
 2017年、イギリスで発表。2019年9月、邦訳刊行。

 

 『カササギ殺人事件』の作者、ホロヴィッツによる元刑事ダニエル・ホーソーンを名探偵に据えたシリーズ第1作。
 自らの葬儀を手配した独り暮らしの老婦人が当日に殺される。過去に夫人が起こした10年前の交通死亡事故が関係するのか。ハリウッド俳優の息子が妻と子を連れて帰ってきて葬儀を行うが、さらなる事件が発生する。
 名探偵役のホーソーンはとにかく偏屈。自分のことはしゃべろうとしないし、ワトソン役に誘いながらもホロヴィッツのことは全然信用していない。読んでいていら立ってくるが、有能なのは間違いない。読者も見落としそうな小さな手がかりから推理を繰り広げ、真相を導き出す。単純にその点だけを見るならば、きわめて端正に書かれた本格ミステリだと言えるだろう。この点だけでも十分満足できる。
 しかし本書の特徴のひとつは、ワトソン役が作者自身なのだ。それも、作者の名前を使っている、というだけでなく、本当の作者の回りが出てくる。妻にしろ、エージェントにしろだ。自分自身を投影し、テレビ業界や自らの出版物など自分の周りに起きたことも書き記している。スピルバーグが出てきたときは、本当に大丈夫かと思ったぐらいだ。ある意味メタな内容なのだが、面白いかと聞かれた正直言って疑問だ。今後、そんな感想を裏切るような大掛かりなトリックや仕掛けが出てくることを祈る。自分自身をここまで間抜けに描いて楽しいか、とは思うが。
 本作も文春やこのミスなどで1位を取り4冠を達成している。いまどきこんな純粋な本格ミステリが出てくることにも驚きだが、その期待に十分こたえる内容とはなっているだろう。無理にホームズになぞらんでもいいだろうとは思ったが。