平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

麻耶雄嵩『化石少女と七つの冒険』(徳間書店)

 京都の北部に位置する、百年以上の歴史を誇る名門、私立ベルム学園。古生物学部の部長、赤点の女王である神舞まりあは無事に三年生に進級。平部員でお守り役の桑島彰も二年生に進級した。古生物学部も無事に存続したが、もうすぐ五月になるのに新入部員が一人も来ない。そんな時に、理科室で一年生の東海林清花が殺害された。まりあももう事件には興味がなく、彰も安心していたが、清花のクラスメイトで、以前部を見学に来た高萩双葉が相談にやってくる。現場の状況から、彼が疑われている。元生徒会の稲水渚からまりあが探偵をしていると聞いたので、助けてほしいと頼みに来た。さらにベルム学園のヘンリー・メリヴェールと名乗る高校生探偵も登場する。「第一章 古生物部、差し押さえる」。
 ゴールデンウィーク後、高萩が古生物学部に入部した。高萩は、今年建った新しいクラブ棟に既に九つの「七不思議」があると話をするが、特にバイク部にある等身大の一つ目のロボットが夜な夜な両手を血まみれにして新クラブ棟の前の廊下をうろつきまわるという「彷徨える電人Q」の話にまりあが食いつく。古生物学部に興味を持たせるために、プテラスピスのプラモデルを屋上から糸で垂らして窓の外を移動させ、新しい「七不思議」に加えようという作戦が立てられ、三日後に実験を行うこととした。ところが三人は、新クラブ棟の1階のトイレで二年生の男子生徒の死体を発見する。しかもなぜか、電人Qの二本の腕を抱えていた。「第二章 彷徨える電人Q」。
 五月の下旬、京都市北部の広河原の山中で、新種とみられる白亜紀の全長五メートルほどの肉食恐竜の後肢の化石をまりあが発見。地元大学を主体としたプロジェクトチームが発足され、まりあは化石ガールとして全国に名前が広がった。両親からも祝福されて公認され、さらに暗い話題が多い学園のイメージアップにつながって、有名大学の指定校推薦の枠が与えられた。そんな騒動が少し落ち着き、来週には文化祭が始まる六月中旬。新入部員は一人もいないまま。部室にいた三人は、石油の匂いが外から漂ってくるのに気付く。非常ベルが鳴って慌てて廊下に出ると、彰は女子生徒が逃げていく後姿を見かけた。隣の書道教室に入ると、スプリンクラーが作動している中、灯油を掛けられて燃えていた大人の男性を発見。書家としても名前のあるイケメンの書道教師が殺されていた。しかしまりあは文化祭の準備が大事だと、事件解決に興味を示さなかった。「第三章 遅れた火刑」。
 九月に入り、まりあは学園から表彰され、マスコミからの騒動は一段落したが、今度は学内から取材が舞い込むようになった。そんな騒がしい日々が過ぎた九月下旬の放課後。講義室で二年生の女子生徒が殺害され、床に血で化石女という文字が書き残されていた。当然まりあが疑われ、刑事から事情聴取を受けたが、殺害されたと思われる時間帯にまりあは部室にいて一歩も外に出ず、彰と高萩もそれを証明した。では化石女とはどういう意味なのか。「第四章 化石女」。
 十月下旬のある日、彰は体育祭の集団遊戯であるマスゲームの練習が忙しく、部室に来ないことをまりあに責められた。その日も練習で、彰はクラスメイト三人と一緒に弱小部である変装部を臨時更衣室としてジャージに着替えて練習した。練習が終わって変装部室に戻ってきたが、なぜか彰の学生服だけが盗まれていた。理由もわからず、とりあえず担任に報告し、その日はそのままジャージで帰った。翌朝、新クラブ棟の屋上で三年生の女子生徒の死体が発見された。しかもその女子生徒は、彰の学生服を着ていた。一人称を乃公と呼ぶ、ベルム学園のヘンリー・メリヴェールこと、一年生の片理めりと、その相棒の久留間も登場。「第五章 乃公(だいこう)()でずんば」。
 新クラブ棟の裏手にある大きなクスノキは、恋人同士が赤い紐を互いの手首に繋いで一周し最後にキスをすることで永遠の愛が結ばれるという願掛けがあることから、愛染クスノキと名付けられていた。赤いひもは願掛け後、枝に引っ掛ける習わしになっている。十二月下旬、その愛染クスノキに二年生の男子生徒が愛染ロープをかけて首を縊っていた。その両側に、クラスメイトの女子生徒が二人、幹にもたれかかるように死んでいた。この三人心中の第一発見者は、男子生徒の義理の妹である一年生であった。「第六章 三角心中」。
 一月下旬、見知らぬ女子生徒、二年生の橋尾侑奈から体育館の裏側に呼び出され、付き合ってほしいと告白された。それだけならいいが、ピンク色の封筒を渡されるとともに、「あなたの秘密を知っています」と囁かれた。もしかして彼女も、まりあのような推理力をもっているのか。そして体育館の二階から、鬼の形相をした男子生徒が睨みつけていることに気付いた。部室で彰はまりあから、四月の新歓イベントで、登壇組に古生物学部が選ばれ、タイ飯部とコラボが決まったと報告。二日後、橋尾侑奈が体育館の裏で、十字架に磔にされて殺害された。「第七章 禁じられた遊び」。
 『読楽』2019~2022年掲載。2023年2月、単行本刊行。

 『化石少女』から7年後の続編。冒頭から前作のネタバレが出てくる。やはり事前に読んでおいてよかった。
 まりあと彰は無事に進級し、古生物部も存続。進級してもぽんこつな名探偵まりあと、そのお守りであるワトソン役彰の関係は変わらないかに見えたが、新入部員、自称高校生名探偵など、様々なキャラクターが今回も登場。そして名門であるはずの高校で、殺人事件が頻繁に発生する。
 帯にある「青春、友情、熱気、成長……学園ミステリと聞いて思い浮かべること、それらはすべて裏切られる! 常識破り絶対保証、後味のよさ保証なし。これが麻耶雄嵩にしか書けない学園ミステリだ!」がすべてを物語っている作品。内容的には、学生らしい悩みを抱えている生徒たちが登場し、さらに主人公がヒロインとの関係に悩んでいるから、学園ミステリには違いないんだよな。ただ、すぐに殺人事件が、それも頻繁に起きるという異常さが、ただの非日常程度の感覚で終わっているだけで。
 個々の事件の本格ミステリ度でいえば、前作の方が高かったかもしれない。特に前作「第四章 自動車墓場」のような馬鹿馬鹿しいトリックがなかったのは残念である。ただ、ぽんこつ名探偵の推理をワトソン役が否定するというパターンが繰り返された前作より、本作の方がひねくれ度が高い。前作の推理→否定というパターン(ある意味二段階推理)そのものは健在であるが、見せ方のバリエーションが広がっているのだ。さらにその広がりは、予定調和でもあったまりあと彰の関係に変化が生じる結果にもなっている。そして結末までくると、前作以上の仕掛けが待ち受けている。ここまで来ると脱帽。前作からこの展開を考えていたのか、それとも新たに考え出したのか。いずれにしてもひねくれているし、麻耶雄嵩は一筋縄ではいかない。そして、ハッピーエンドを迎えさせてくれない。色々な意味で“らしい”作品だが、茗荷の独特の味のように、なぜかお薦めしたくなってくる作品である。
 しかし、雑誌掲載で半年おきに読んだって、作者の狙いはわからないよな。おまけになぜ出てきたのかわからないままの登場人物もいるし。結末までの流れも含め、これはやはり次作への伏線だろうか。