平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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東川篤哉『放課後はミステリーとともに』(実業之日本社)

放課後はミステリーとともに

放課後はミステリーとともに

私立鯉ヶ窪学園高等部二年生で、探偵部副部長の霧ヶ峰涼が様々な事件に遭遇し、謎を解こうとする。

高等部E館視聴覚資料室でビデオテープの盗難事件が発生。偶然遭遇した霧ヶ峰涼は、先輩や警備員と犯人を追いかけるも、曲がり角のところで犯人が消えてしまった。そこにいた用務員は、誰も通っていないといった。「霧ヶ峰涼の屈辱」。

涼が偶然遭遇した芸能カメラマンは、人気急上昇中の若手男優が密会をしているというアパートを見張っていた。そのとき、二人の男性が現れて部屋の中に入り、脚立を担架代わりに、苦しそうにしている部屋の住人である無名舞台女優を運び出すところだった。翌日、カメラマンはまだ部屋の中に若手男優がいるはずだと思っていたが、通りがかった女優がカメラマンと涼との会話を聞きつけ、部屋の中を見せると、そこには誰もいなかった。「霧ヶ峰涼の逆襲」。

クラスメイトの親友、高林奈緒子が居候をしている資産家宅の祖父がたびたび危ない目に合っていた。そして涼が奈緒子の部屋を訪ねたとき、祖父が毒入り珈琲を飲んで、病院に運ばれた。祖師ヶ谷警部の目の前で、息子夫婦、さらにその一人息子は互いを犯人だと罵りあう。「霧ヶ峰涼と見えない毒」。

地学の池上冬子先生の呼びかけによる流星雨観測会。二誌の夜空に偶然見えたのは、緑色の飛行物体。UFOだと騒ぐ池上先生と、ナビゲータに選ばれてしまった涼は車に乗って飛行物体を追いかける。「霧ヶ峰涼とエックスの悲劇」。

涼と奈緒子は体育倉庫の窓から煙草の煙が出てくるのを見かける。行ってみると、そこにいたのは隣のクラスで不良の荒木田聡史。さらにそこへ駆けつけてきたのは、武闘派の体育教師、柴田。柴田は倉庫の中を探すが、煙草もライターも出てこない。「霧ヶ峰涼の放課後」。

涼は学園裏門から帰ろうとしたところ、隣のクラスの女生徒が落ちてきて、涼と話をしていた教育実習生に当たってしまった。屋上に女生徒の鞄はあったが、屋上への階段途中にある踊り場にいた男子生徒は、誰も見ていなかった。しかし女性とは、自殺なんかじゃないといった。「霧ヶ峰涼の屋上密室」。

自称陸上部のスーパースターである足立が、走り幅跳びの砂場で頭を殴られて倒れていた。ところが砂場には足立の足跡しかなかった。「霧ヶ峰涼の絶叫」。

美術部の友人に頼まれ、モデルになるためにE館を訪れた涼。ドシンという音に驚き、慌てて美術室に入ってみると、倒れたミロのビーナス像の下に荒木田がいた。さらに、学生服を着た男が、涼を突き飛ばして逃走。慌てて追いかける涼だが、曲り角でぶち当たったのは生徒会員の山浦。また犯人は消えたのか。「霧ヶ峰涼の二度目の屈辱」。

2003〜2010年、月刊『ジェイ・ノベル』に不定期掲載。2011年2月、ソフトカバーで刊行。



ユーモアミステリの第一人者となった東川篤哉による、鯉ヶ窪学園探偵部シリーズの番外編。探偵部副部長の霧ヶ峰涼が主人公だが、残念ながら彼女は探偵役とはなれず、基本的に狂言回しで終わることが多い。本シリーズの探偵部三人組は登場しないので、涼が彼らとどういう関係になっているのかが本書ではわからないが、本シリーズに出てくる師ヶ谷警部や烏山千歳は登場する。

お手軽に読めて、楽しくクスリと笑え、そこそこ本格ミステリーっぽい雰囲気も味わえる、お得な一冊。お手軽すぎて物足りない、という読者もいるだろうが、そこは好みの問題。時間を潰すにはちょうどいい、作品集である。逆に言えば、それ以上は特になし。