平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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フレデリック・フォーサイス『カリブの失楽園』(角川文庫)

 その年、マクレディは外交官を装い、カリブ海の英領バークレー諸島を訪れていた。まばゆい光にあふれるその島は、一見、平穏そのもののように見えた。が、島はイギリスからの独立をひかえ、独立反対運動と初代首相の選挙戦で揺れていた。そんななかで、マイアミから休暇で釣りに来ていた刑事が突然消息を絶った。さらに、現職の総督が何者かに暗殺された。二つの事件は何か関連があるのか、総督はなぜ殺されねばならなかったのか。“外交官”マクレディは騙し屋の本領を発揮して、真相の究明に乗り出した――。雄々しく闘ったスパイたちに捧げる鎮魂歌。マクレディ・シリーズ4部作完結編。(粗筋紹介より引用)
 1991年、イギリスで発表。1991年12月、角川書店より邦訳単行本刊行。1993年3月、文庫化。

 イギリス秘密情報機関SISのベテラン・エージェント、DDPS(「欺瞞、逆情報及び心理工作」部)部長、通称騙し屋ことサム・マクレディ四部作の最終巻。独立直前で選挙戦真っ最中のバークレー諸島で、総督のマーストン・モバリー卿が殺害される。マクレディは別名の外交官として事件に挑む。
 四作目は異色作といってもいいだろう。何せ、犯人捜しのミステリなのである。もちろん後半には凄腕の騙し屋ならではの展開こそあるものの、過去の三作品とはテイストが異なる。特に最後の解決方法は、とんでもない。マクレディを追い出そうとしているティモシー・エドワーズSIS副長官が、「野放図な行動が引き起こしたあの騒ぎ」というのも無理はない。だが、それがマクレディならではなのだろう。読者から見たら、痛快そのものである。
 マクレディが活躍した四件が聴聞会で報告された後、マクレディは結果も聞かずに去っていく。いわゆる社会主義の国々を相手に闘ってきたスパイたちへの鎮魂歌は、新たな戦いの序曲でもあった。いつの時代もスパイたちは活躍し続け、そして人間たちの争いは終わらない。