平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ジョン・ガードナー『裏切りのノストラダムス』(創元推理文庫)

 ある日、ロンドン塔にやってきたドイツ国籍の女性が奇妙なことをいいたてた。新婚早々の夫が1941年にここでスパイとして処刑されたというのだ。その夫だという男の名は、当時仏独両国で遂行されたある諜報作戦に関するファイルに確かに記載されていた。しかし、ロンドン塔で処刑されたという事実はなかった。この話に興味をおぼえたハービー・クルーガーが記録をたどっていくうちに、ノストラダムスの大予言を利用してナチ親衛隊内部にもぐり込み、巧妙な心理戦略を展開しようという第二次大戦末期の《ノストラダムス作戦》なるものが、徐々にクローズアップされてきた……。意外な結末まで読者を飽きさせない畢生の大作。(粗筋紹介より引用)
 1979年、イギリスのHodder and Stoughton社とアメリカのDoubleday社で同時出版。1981年7月、邦訳刊行。

 

 ドイツ生まれのイギリス諜報員ビッグ・ハービー・クルーガーを主人公にした長編三部作の第一作。ヒルデガルデ・フェンダーマンというドイツ国籍の女性の訴えを耳にしたハービーが過去を探るうちに、第二次世界大戦でイギリスの諜報部隊が行った「ノストラダムス作戦」に辿り着く。ハービーは、当時作戦に参加したヨーロッパ援助計画部部長のジョージ・トーマスから話を聞き、報告書に載っていない細かい出来事まで話をしてもらうことにする。
 物語は作品世界の現代と、ジョージが語る戦争末期の話が交互に語られる。当時のナチスノストラダムスの予言を自軍に都合の良い解釈をして配布していたのは史実。それを利用したノストラダムス作戦の全貌がジョージの語りによって徐々に明らかになっていくのが面白い。当時の話と、現代の話をつなぎ合わせ、ハービーが些細な出来事を集めて真相に辿り着く展開も面白い。まるでチェスの心理戦を見ているように、少しずつチェックメイトに近づく展開が巧い。結末に至るまでのストーリーと、その結末には素直に感心しました。大作と言われるだけあるわ。
 それと、ハービーが作る料理が実にうまそうなんだよな。手に汗握る展開の途中で、こういう息抜きを作るところも本当にうまいと思う。それにハービーが好きなマーラーが、小説を読む間、常に流れているような感じにさせる。
 ということで、ようやく読むことができました。スパイ小説の傑作です。