平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ジプシー・ローズ・リー『Gストリング殺人事件』(国書刊行会 奇想天外の本棚)

 ストリッパーとしてオハイオ州コロンバスのゲイエティ劇場に出演していたジプシー・ローズ・リーは、旧知の興行主H・I・モスに誘われ、親友のジージー・グレアムとともに、彼がオーナーを務めるニューヨークのオールド・オペラ劇場に移籍する。華やかな舞台の裏で繰り返される、踊り子同士のいがみあいや喧嘩、口さがない悪口、踊り子とコメディアンとの恋愛沙汰、警察による手入れ、と移籍先での毎日は騒がしい。そんな中、新しいトイレのお披露目を口実に楽屋で開かれたパーティの席上で、皆から嫌われていた踊り子のロリータ・ラ・ヴェルヌが、Gストリングを首に巻きつけた状態の遺体で発見される。自身にも嫌疑を向けられたリーは、恋人のビフ・ブラニガンとともに調査を始めるが、やがて第二の殺人が!
 一癖も二癖もある人間が出入りし、生々しい人間関係が渦を巻く猥雑を極めたバーレスクの世界を舞台に繰り広げられる、アメリカン・バーレスクの伝説的スターによる異色のミステリ、ここに開幕! クレイグ・ライス代作説を徹底究明した前説だけでもミステリ・ファンはMUSTの一冊。(粗筋紹介より引用)
 1941年、アメリカで発表。1950年、汎書房より邦訳単行本刊行。1966年、『別冊宝石』116号に転載。2022年10月、新訳、単行本刊行。

 アメリカの伝説的なストリッパー、ジプシー・ローズ・リーの処女ミステリ。作品そのものよりも、クレイグ・ライスによる代作というエピソードの方が有名であるが、【炉辺談話】内の酔眼俊一郎は様々な資料を基にライス代作説を否定し、リーが実際に描いた作品としている。リーの二作目『ママ、死体を発見す』(1942年)はクレイグ・ライス名義で論創社から邦訳が出ているが、こちらもリーの実作であるとしている。
 タイトルは知っていたが、読むのは初めて。アメリカン・バーレスクってなんのこっちゃと思って調べたら、「主にストリップティーズやコメディアンによるお笑いなどを組み合わせたショーを指す」(Wikipedia)とのこと。当時のバーレスクの舞台裏についての記述は面白かった。チームを組みながらもやっぱり周囲はライバルなのだから、色々ないがみ合いがあっても当然だろうなと思う。特に人気がお金に直結する世界なのだからなおさら。
 肝心の中身の方だが、ライスの代作と言われても異論が出なかったぐらいな面白さがある。本格ミステリとしてはそれほど惹かれるものはなかったが、ドタバタミステリとしては十分な出来だろう。事件の解決にいたるまでの登場人物のやり取りだけでも、一読の価値はあると思う。
 うーん、ベスト級とまではいかないけれど、これだけの作品がなぜ今まで復刊されてこなかったのだろうと思えるぐらいの出来である。こればかりは、編者に感謝しなければならない。それと、酔眼俊一郎も必読である。