平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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歌野晶午『首切り島の一夜』(講談社)

 壮年の男女と元教師が四十年ぶりに修学旅行を再現した同窓会を企画する。
 行き先は濤海灘に浮かぶ弥陀華島、別名星見島とも言われる離島。
 宴席で久我陽一郎は、当時自分たちの高校をモデルにミステリを書いていたと告白する。
 その夜、宿泊先で久我の死体が発見される。
 折悪しく荒天のため、船が運航できず、天候が回復するまで捜査員は来られない。
 宿にとどまった七人は、一夜それぞれの思いにふける……。
 彼ら一人ひとりが隠している真実は、事件の全容をあきらかにするのか──。(帯より引用)
 2022年9月、書下ろし刊行。

 

 帯には「十年ぶり渾身の書き下ろし」と書いてある。しかも「二度読み三度読み必至!!」とまで書かれると、何らかの仕掛けがあることは間違いなし。ということで注意しながら読み進める。ところが、登場人物や舞台の説明がなかなか出てこない。離島での同窓会。登場人物たちが酒を飲みながらの会話を続け、少しずつ関係性がわかり始める。ただ、読んでいて個人的に違和感が漂う中で、事件が発生。荒天なので警察が来ることはできない。これはやはりクローズド・サークルものなのかと期待する。さて、ここからどうなると思ったら、登場人物一人一人の過去のエピソードに入ってしまう。
 この登場人物の過去エピソードだが、いずれも色々あった設定になっている。こういうのを読むと、かつて「人間が描かれていない」と新本格が評されていたことへの意趣返しに見えてしまうのは気のせいだろうか。それぞれの登場人物がこの同窓会に参加するまでの追憶自体は面白いのだが、今回の事件とどこにつながるのかさっぱりわからないまま話が進んでしまう。
 最後になって、ある仕掛けがあったことがわかるのだが、正直言って「だから何?」としか思わなかった。違和感の正体はこれか!と判明したのだが、それ以上のサプライズが見つからない。最後まで読み終わって、気付くこと。作者はいったい何をやりたかったんだ?
 久我がかつて書いていたミステリはどこにつながるのだろう。主人公のアナグラムはすぐにわかったのだが、それが今回の事件とどこにつながるのだ? カバーを外したら出てくる小説のエピソードは、何を暗示しているのだ? そもそもこれ、誰が書いたんだ?
 帯にある通り、確かに「二度読み三度読み必至!!」なのかも知れない。少なくとも、作者の仕掛けが成立しているかどうかは確認してしまう。ただ、それ以上のものが見つからない。血染めのタオルとか、回収していない伏線、色々あるよね。
 検索必至の作品です。もしかしたらどこかに読み落としがあるんじゃないか、調べてしまう。だけど、誰も見つけていないみたい。そもそもこれ、「本格」ですらない。謎解きすらない。もやもやしか残らない。「私は作者の意図を全部見抜いてやる」という人にはお薦めできるが、ミステリを楽しみたいという人には薦められない。