- 作者: 岸田るり子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2004/10/22
- メディア: 単行本
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2004年、第14回鮎川哲也賞受賞。応募時タイトル『屍の足りない密室』。同年10月、単行本刊行。
鮎川賞だし、タイトルを見る限り密室に何か仕掛けのある本格ミステリかと思っていたのだが、その期待は外れた。作者はフランス在住が長かったということだが、フランスミステリの影響を受けたサスペンス作品である。
嫌みな女流画家、自分勝手な社長夫人に囲まれたリストラされたフリーの女性デザイナーが主人公。それにしても先の2人がバカすぎる。ここまでバカな登場人物も珍しい。そんな女性2人に振り回されるのだから、主人公にもう少し感情移入できるようにすればいいのにとは思った。登場人物がどれもこれも嫌みなところが表に出ており、好きになれない。女流画家の双子の姉弟はもう少しよく描けなかったかだろうか。人物描写は悪くなかったが、共犯者の立ち位置についてはもう少し書きようがあったと思う。
5年前の失踪事件と、2つの連続殺人事件はいずれも密室の中の出来事。この3つの密室トリックについては久しぶりにこの手を見た、と言っていいだろう。警察がわからない方が不思議なくらいだ。ただ、失踪事件の密室についての必然性については、それなりによくできているとは思った。後半2つが密室である必然性は薄いと思ったが。
不満点は推理がないこと。全く推理のないまま犯人が捕まってしまうというのはどうかと思う。これが鮎川賞でなかったら、そこまで言うつもりはないのだが。また、視点がころころ変わるのは読みにくい。最後の手記が小説風になっているのは興醒め。ただ、小説自体は読みやすかった。「一枚の絵を見た女が、悲鳴をあげた」謎はなかなか魅力的だったので、この線でもっと進めるべきだった。
いわゆる量産型のミステリは書ける人だと思ったが、本格ミステリを書ける人とは思わなかった。応募先がミスマッチだったと思う。