平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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岸田るり子『密室の鎮魂歌(レクイエム)』(東京創元社)

密室の鎮魂歌(レクイエム)

密室の鎮魂歌(レクイエム)

ある女流画家の個展会場で、一枚の絵を見た女が、悲鳴をあげた。五年前に失踪した自分の夫の居場所をこの画家が知っているにちがいない、というのが彼女の不可解な主張だった。しかし、画家と失踪した男に接点はなかった。五年前の謎に満ちた失踪事件……。五年後の今、再びその失踪現場だった家で事件が起きる。今度は密室殺人事件。そして密室殺人はつづく。『汝、レクイエムを聴け』という問題の絵に隠された驚くべき真実! 魅力的な謎といくつもの密室に彩られた第14回鮎川哲也賞受賞の傑作本格ミステリ。(「BOOK」データベースより引用)

2004年、第14回鮎川哲也賞受賞。応募時タイトル『屍の足りない密室』。同年10月、単行本刊行。



鮎川賞だし、タイトルを見る限り密室に何か仕掛けのある本格ミステリかと思っていたのだが、その期待は外れた。作者はフランス在住が長かったということだが、フランスミステリの影響を受けたサスペンス作品である。

嫌みな女流画家、自分勝手な社長夫人に囲まれたリストラされたフリーの女性デザイナーが主人公。それにしても先の2人がバカすぎる。ここまでバカな登場人物も珍しい。そんな女性2人に振り回されるのだから、主人公にもう少し感情移入できるようにすればいいのにとは思った。登場人物がどれもこれも嫌みなところが表に出ており、好きになれない。女流画家の双子の姉弟はもう少しよく描けなかったかだろうか。人物描写は悪くなかったが、共犯者の立ち位置についてはもう少し書きようがあったと思う。

5年前の失踪事件と、2つの連続殺人事件はいずれも密室の中の出来事。この3つの密室トリックについては久しぶりにこの手を見た、と言っていいだろう。警察がわからない方が不思議なくらいだ。ただ、失踪事件の密室についての必然性については、それなりによくできているとは思った。後半2つが密室である必然性は薄いと思ったが。

不満点は推理がないこと。全く推理のないまま犯人が捕まってしまうというのはどうかと思う。これが鮎川賞でなかったら、そこまで言うつもりはないのだが。また、視点がころころ変わるのは読みにくい。最後の手記が小説風になっているのは興醒め。ただ、小説自体は読みやすかった。「一枚の絵を見た女が、悲鳴をあげた」謎はなかなか魅力的だったので、この線でもっと進めるべきだった。

いわゆる量産型のミステリは書ける人だと思ったが、本格ミステリを書ける人とは思わなかった。応募先がミスマッチだったと思う。