時雨の降る午後、9歳のスティーヴは家族を失った。父が母と兄姉を射殺し、そのまま失踪したのだ。あれから35年、事件を顧みることはなかった。しかし、ひとりの女の出現から、薄膜を剥ぐように記憶が次々と甦ってくる。隠されていた記憶が物語る、幸せな家族が崩壊した真相の恐ろしさ。クックしか書きえない、追憶が招く悲劇。(粗筋紹介より引用)
1993年、アメリカで刊行。クック名義の第11長編。悲劇シリーズ第一作。1999年3月、邦訳刊行。
主人公のスティーヴ・ファリスは建築士。マリーという妻と、ピーターという息子がいる。35年前の9歳の時、父親のウィリアム(ビリー)が母のドロシー(ドッティ)と兄のジェイミー、姉のローラを射殺し、そのまま失踪した。ある日、作家のレベッカ・ソルテロが本を書くために取材をしたいとスティーヴの前に現れた。レベッカと話をするうちに、当時の記憶が少しずつ甦ってくる。
読んでいて、地味な男が少しずつ過去の記憶を振り返っていき、父親の内面を探っていくうちに、自らの家族にも悲劇が襲ってくる展開。読んでいて非常に地味だし、ちょっとしたボタンの掛け違いがここまで進むかという点については首をひねるところがあるものの、ひたひたと悲劇が後ろから迫ってくる恐怖の描き方はさすがと思わせる。作者が書きたかったのは、悲劇の真相よりも、その悲劇へ足を進めてしまう人間の闇の部分なのだろう。
退屈でつまらなくなりそうな話を、ここまで読める話にしてしまう作者の筆の巧さはさすがと思わせるものがある。ただ、もう一つ何か欲しかった気もする。その物足りない部分が何なのかは、わからないのだが。そのもどかしさも含めて、作者らしいのかもしれない。