平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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周浩暉『死亡通知書 暗黒者』(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

死亡通知書 暗黒者 (ハヤカワ・ミステリ)

死亡通知書 暗黒者 (ハヤカワ・ミステリ)

  • 作者:周 浩暉
  • 発売日: 2020/08/05
  • メディア: 新書
 

  2002年、省都A市でひとりのベテラン刑事が命を落とし、復讐の女神の名を冠す謎の人物〈エウメニデス〉による処刑の序曲は奏でられた。ネットで死すべき人物の名を募り、遊戯のごとく予告殺人を繰り返す〈エウメニデス〉から挑戦を受けた刑事の羅飛(ルオ・フェイ)は、省都警察に結成された専従班とともに、さらなる犯行を食い止めるべく奔走する。それは羅飛自身の過去――18年前の警察学校生爆殺事件の底知れぬ暗黒と相対することでもあった……。中国で圧倒的な人気を誇り、英米で激賞された華文ミステリ最高峰のシリーズ第1弾。(粗筋紹介より引用)
 2009年、国際文化出版公司から『死亡通知書』のタイトルで刊行(あとがきの最初だと2008年になっているけれど、どっちが正解だろう? それとも中国ではなく別のところで出版されたのかな?)。2014年、ネットドラマ化に合わせ『死亡通知書:暗黒者』と改題して北京時代華文書局より刊行。2020年8月、邦訳刊行。

 

 作者の周浩暉は1977年生まれ。精華大学修士。会社員や大学教員として働きながらインターネットや雑誌上で小説を発表し、2005年に『凶画』で単行本デビュー。本書の主人公羅飛(ルオ・フェイ)はこの作品から登場する。2009年から出版された本書をはじめとする〈エウメニデス〉との死闘を書いた「死亡通知書」三部作が大ヒットし、2018年に英訳版、2019年に仏語訳版が出版された。
 ということで、初めて読む華文ミステリ。推理小説は民主主義の発達した国でのみ書かれる、なんて言った人がいたな、昔。不可能と思われる状況下での予告殺人を繰り返すエウメニデス(ギリシア神話に出てくる慈愛の女神たち)と省都警察との死闘が描かれる。龍州市公安局刑事隊長である羅飛は、個人的な用事で会いに来た省都A市の公安局刑事である鄭?明の死体を発見する。会いに来た理由は、羅飛が18年前の警察学校時代に遭遇した事件に関してだった。エウメニデス専従班が組まれ、羅飛が参加するも、エウメニデスは悪事を犯しながらも捕まらない者へネット上で殺人予告を行い、警察をあざ笑いながら殺人を繰り返す。
 ここまで鮮やかに行くものかと思いながらも厳重な警戒態勢の中で予告殺人が繰り返される。さらに犯人たちとの追いつ追われつの死闘が加わる。羅飛の過去も絡み、いったい誰が本当の味方なのかわからない状況で、専従班は犯人を追い続ける。犯人を追いかける専従班の面々も癖のある人物ばかりで、彼らのやり取りも非常に面白い。中国の土地勘がなく、さらに人物名や役職を覚えるのに手間取り、背景が掴み切れない部分があったのは残念だが、それでもいかにして不可能犯罪を行うか、そして誰が犯人かという謎解き要素も加わり、サスペンスも加味された警察小説として非常に面白い。読み始めたら一気読み必死(名前や地名がこんがらがってくるので、一気読みした方がベストということもある)。映像化されたときは映えただろうなあ。
 羅飛が登場していた過去の三作品を読んでいれば、もう少し思い入れが違ってきたのかな。その点はちょっと残念かも。不満といえばそんなところぐらいか。とにかく面白かった。傑作。これは早く続編が読みたい。