平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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横溝正史『完本 人形佐七捕物帳 四』(春陽堂書店)

 『完本 人形佐七捕物帳』第四巻収録作品は、日米開戦後に杉山書店から刊行された『人形佐七捕物百話』に収録された書下ろし16本を収録。一部は他の捕物帳からの改作があるものの、基本的には完全新作である。
 戦時下ということもあってか、基本的にエログロ風味は控えめ(一部の妖艶描写は後に書き加えられたもの)。解説にもあるが、「小倉百人一首」のプラトニックな関係は戦時下ならではの書き方だろう。また本格ミステリ味の色濃い作品は少なく、人情味の多い作品が多いのも、戦時下ならではかもしれない。まあ、それはそれでほっこりするものであるが。佐七、お粂、辰、豆六の、時には喧嘩し、時にはユーモラスながらも、それぞれが深い絆でつながっている関係が強調されている感もある。
 「小倉百人一首」「双葉将棋」と暗号物が二つ並んでいるのは、執筆当時の作者の興味を示しているようで面白い。「妙法丸」の意外な凶器、「鶴の千番」の手がかりから殺人方法を導き出す推理など、本格ミステリファンが注目するものもある。もちろん、本巻で本格ミステリ味が一番濃いのは、「百物語の夜」だが。
 本巻でお勧めするのは、自選集でも選ばれていて連続殺人事件の意外な犯人など評判の高い力作「ほおずき大尽」、公方様の依頼で佐七たちが大奥で活躍するタイムリミット謎解き「鼓狂言」、連句のダイイングメッセージが面白い「お玉が池」、クリスティーの某長編を彷彿とさせる余韻の深い傑作「百物語の夜」、佐七の人情話ではトップクラスの後味の良さ「団十郎びいき」といったところ。