平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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佐藤大介『ルポ 死刑 法務省がひた隠す極刑のリアル』(幻冬舎新書)

 世論調査では日本国民の8割が死刑制度に賛成だ。だが死刑の詳細は法務省によって徹底的に伏せられ、国民は実態を知らずに是非を判断させられている。暴れて嫌がる囚人をどうやって刑場に連れて行くのか? 執行後の体が左右に揺れないよう抱きかかえる刑務官はどんな思いか? 薬物による執行ではなく絞首刑にこだわる理由はなにか? 死刑囚、元死刑囚の遺族、刑務官、検察官、教誨師、元法相、法務官僚など異なる立場の人へのインタビューを通して、密行主義が貫かれる死刑制度の全貌と問題点に迫る。(裏表紙より引用)
 2016年1月に出版された『ドキュメント 死刑に直面する人たち――肉声から見た実態』(岩波書店)に最新の情報と追加取材の内容を加え、加筆・修正。2021年11月、刊行。

 

 帯に「"死刑賛成"とこれを読んでも言えますか?」「150年変わらない現行制度の不都合な真実を暴く」と書かれているので、気になって手に取ってみた。読み終わって言えるのは、この程度の内容だったら「死刑賛成」という意見は変わらないな、ということである。内容的に言えば、今までの様々な死刑に関する著書や新聞記事をまとめて整理したものにすぎず、目新しいものはほとんどない。
 毎回思うのだが、死刑制度に反対する被害者遺族で出てくるのは、ほとんどが原田正治さんである。「半田保険金殺人事件」で弟を殺害された被害者遺族で、長谷川敏彦元死刑囚(2001年執行)と交流を持っていた。死刑廃止派が被害者遺族でも死刑を望まない人がいるという話を出すときに、必ずと言っていいほど例に取り上げるのが原田さんだ。最近だったら、広島連続保険金殺人事件の被害者遺族、大山寛人さんの名前も出てくるが、大山清隆死刑囚の実子でもあるし、例外に近いだろう。とにかく、死刑囚は何百人いるにもかかわらず、被害者遺族で死刑反対を訴えているのがごくごくわずか、という事実はもっと考慮されるべき事実である。
 だいたい、裁判員裁判でどれだけの遺族が極刑を訴えているだろうか。この事実について、もっと身を入れて考えるべきではないか。少なくとも、無視してよいものではない。
 それに「償い」って、いったい何を償うのか。この問いについて答えてくれる人は誰もいない。まさかとは思うが、被害者の冥福を毎日祈ることが「償い」とでも思っているのだろうか。それは加害者のただの自己満足だ。
 ほかにも言いたいこともある。例えばP214 「日弁連は2016年10月に福井市で開いた「第59回人権擁護大会」で、2020年までの死刑制度廃止と、終身刑の導入を国に求める宣言を採択した」とあるが、ここに問題点があり、採択の多数決は大会に出席した弁護士「だけ」で行われたのだ。ちなみに賛成546人、反対96人、棄権144人である。ところが、日弁連に所属する弁護士人口は2015年時点で36,415人。出席人数はわずか2.2%、賛成人数だと全弁護士の1.5%で採択されている。当然委任状などがあるわけではない。こんなことが許されるのだろうか。どこの社会でも有り得ない話である。
 他にもP165「被害者遺族は、加害者からの損害賠償を受けられないことが多く、また、事件に関する情報提供など、その権利が十分に保障されているとはいえない状態が続いていた。しかし、1981年から始まった犯罪被害者給付制度で遺族給付金が支給されるなど、経済的支援が行われるようになった。また、2000年に入って行われた刑事訴訟法の改正や刑事手続に関する措置法の制定によって、被害者遺族などにも訴訟記録の閲覧・謄写や意見陳述の機会が保証されるようになった。このように、現在ではさまざまなかたちで遺族に対する支援が行われている」と書かれているが、例えば意見陳述の機会については、日弁連は「犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することのできる被害者参加制度に対する意見書」にある通り反対しているし、2015年10月に日弁連が配布した「死刑事件の弁護のために」という手引きには被害者参加そのものに反対すべきとか、被害者の権限行使に対し随時否定的な意見を述べるべきなど、日弁連は被害者遺族が勝ち取った権利を奪い取ろうとしていることをスルーすべきではない。
 最後のインタビューだって、例えば当時はあった「あすの会」や結成された「犯罪被害者支援弁護士フォーラム」などにも行うべきではなかったか。死刑という究極の判断を導くもととなる、犯罪の冷酷さや深刻さ、被害者の苦しみ、社会に与えた損害と影響を訴えるためには、第一に問い合わせる対象だろう。
 タイトルは一応ルポとなっているが、死刑反対に不都合な真実について記されていることは少なすぎる。もっと公平な著書を、読みたい。