- 作者: 有栖川有栖
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2015/10/08
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (14件) を見る
2015年10月、書き下ろしで刊行。
火村英生シリーズとしては『マレー鉄道の謎』以来13年ぶりの書き下ろし長編。連載を含めても『乱鴉の島』以来9年ぶりの長編である。定期的に本屋で見かけるから、まさかこんな長い期間、長編を出していないとは思わなかった。
火村が入学試験で忙しいことから、有栖川が単独で調査を行っている。今回は事件と言うよりも、亡くなった男の過去を探す物語であり、どちらかと言えば私立探偵物の趣がある。中之島の描写が多い点は、旅情ミステリに近いかもしれない。
そのような設定であるから、当然展開は地味である。しかし、少しずつ解かれていく展開は丁寧に書かれており、読者を飽きさせない。とはいえこの辺は好みがあるだろうし、退屈に感じる読者もいるだろう。まあ、もう少し短くしてもよかったんじゃないかとは思うが。
真打ち登場、みたいな形で最後に事件へ乗り出した火村によって、梨田の死の真相と意外な結末が待ち受ける。とはいえ、結末については伏線が張られているわけではなく、やや唐突な感がある。このあたりについては、惜しい、といわざるを得ない。
火村も有栖も34歳のまま、というのはどうかと思うし、さり気なく火村の闇の部分とそれに対する有栖の思いが書かれているのは、今後の伏線だろうか。今回の小説には不要だった気もするが。
久しぶりに火村シリーズを読んだが、安定の面白さがある力作である。どうせなら短編でもう1回、このホテルに登場してもらいたい気がする。