平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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アレックス・パヴェージ『第八の探偵』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 独自の理論に基づいて、探偵小説黄金時代に一冊の短篇集『ホワイトの殺人事件集』を刊行し、その後、故郷から離れて小島に隠棲する作家グラント・マカリスター。彼のもとを訪れた編集者ジュリアは短篇集の復刊を持ちかける。ふたりは収録作をひとつひとつ読み返し、議論を交わしていくのだが……フーダニット、不可能犯罪、孤島で発見された十人の死体──七つの短篇推理小説が作中作として織り込まれた、破格のミステリ(粗筋紹介より引用)
 2020年、イギリスで発表。2021年4月、邦訳刊行。

 

 作者のデビュー作。登場人物はグラント・マカリスターとジュリア・ハートの二人だけ。マカリスターが25年以上前、1940年代の初めに私家版として出版した短編集『ホワイトの殺人事件集』を復刊したい、とジュリアが持ち掛け、すべての作品を振り返る。「一九三〇年、スペイン」→容疑者のグループ、「海辺の死」→被害者のグループ、「刑事と証拠」→探偵のグループ、「劇場地区の火災」→犯人のグループ、「青真珠島事件」→某長編へのオマージュ、「呪われた村」→容疑者の部分集合、「階段の亡霊」→(省略)。どの短編にもテーマはあるのだが、実はこの短編集、元エディンバラ大学数学教授であるマカリスターが、1937年に書いた『探偵小説の順列』という殺人ミステリの数学的構造を考察した論文を実践したものであった。しかし、どの短編にも矛盾点がある。……なんか書いていて疲れた(苦笑)。いくつかの作品は某作家へのオマージュになっている。
 まあ、作者にお疲れさまと言いたい。よくもまあ、こんな凝った作品を書いたもんだと感心してしまう。だけど面白かったかと聞かれたら微妙。実際のところ、ここまで凝る、苦労する必要は全くないよね、これ。登場人物の二人ともお疲れさまと言いたくなるし、作者には、なぜこんな推理小説のための推理小説みたいな作品を書いたのか聞いてみたいところ。
 技巧的、というよりは作り物というのがピッタリくる作品。好きな人は好きなんだろうな、とは思う。