平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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連城三紀彦『敗北への凱旋』(創元推理文庫)

 終戦から間もない降誕祭前夜、まだ焼け跡の残る横浜・中華街の安宿で死体となって見付かった隻腕の男。才気あるピアニストとして将来を嘱望されながらも戦争によって音楽の道を絶たれた男は、如何にして右腕を失い、名前を捨て、悲惨な末路を辿るに到ったのか。そして、遺された楽譜に仕組まれたメッセージとは――ミステリ史上最高難度の、そして美しい暗号が浮かびあがらせる、もうひとつの戦争。名匠の初期を代表する長編が甦る。(粗筋紹介より引用)
 初回のみ『臨時増刊小説現代』1981年6月、発表。1983年11月、講談社ノベルスより書下ろし刊行。1986年8月、講談社文庫化。1999年3月、ハルキ文庫より発売。2007年8月、講談社ノベルスより復刊。2021年2月、創元推理文庫より発売。

 

 作者の第二長編。出版当時の記憶は全くありません。出ていたことすら知りませんでした。
 太平洋戦争時の事件を背景に、人気作家となった柚木桂作が次作の題材に選んだ、元軍人の寺田武史が遺した楽譜の謎を追う作品。とにかく暗号がわからない。最高難度というのもわかる。何でこれが淡々と解かれるんだろうというストーリーの無理は気になったが。そして暗号そのものを理解できなくても、暗号を遺した寺田武史自身の謎、そして戦争で右腕を失くした寺田が戦後に殺害された事件の謎を追う過程も楽しい。
 ただね、最後の展開は唖然とした。海外の有名短編の例があるとはいえ、いくら何でも、という気持ちが強い。これ以上書くとネタバレになってしまうけれど、世界情勢も絡めたならやはり無理があるかな。何もここまでしなくても、もっとやりようがあったはず。
 後半で評価がガタ落ちでした、私には。はっきり言って力を入れすぎてしまい、筆が滑りすぎてしまった印象です。テーマに溺れたとしか思えませんね。