平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ジョン・ガードナー『ベルリン 二つの貌』(創元推理文庫)

 東ベルリンのKGB先任将校が、冠状動脈血栓で急死した。彼はかつて冷戦のさなか、ハービーの諜報網を崩壊させたほどの実力者だった。だが、その死にまつわる奇妙な噂が囁かれていた。死体には首がなかったというのだ。そして、ある日突然この将校の副官が亡命してきた。ピュートル……亡命者が口にしたこの言葉を聞いた時、ハービーの心はにわかに騒立った。それは、ハービーの諜報網がこの男につけた暗号名で、東側の諜報員が知りうるはずもないからだ。裏切者がいるのか? それとも罠か? そして、首のない死体は何を意味しているのか? 諜報員の非情な世界を描いて、衝撃のラストまで読者を話さない超大作!(粗筋紹介より引用)
 1980年発表、1982年11月、邦訳が創元推理文庫より刊行。

 

 『裏切りのノストラダムス』に続くドイツ生まれのイギリス諜報員ビッグ・ハービー・クルーガーを主人公にした長編。前作は1970年代だったが、今作は1980年が舞台である。部下のトニー・ワーボイズ、新諜報組織クゥルテットのメンバーで東ドイツ政府観光局に勤務するクリストフ・シュナーベルン、同じくメンバーのヴァルター・ギレン、同僚のタビー・フィンチャーなどは前作から引き続き登場する。この辺りは、訳者に有難うと言いたいぐらい、丁寧にあとがきで説明してくれている。
 今作は東ベルリンの現地諜報員テレグラフ・ボーイズの6人のメンバーをいかにして西ベルリンに逃がすか、しかしこの中に裏切り者がいるかもしれないが、それはホントか、もしくは誰なのか。ハービー自身が東ベルリンに潜入し、虚々実々の駆け引きを繰り広げる。
 読んでいて過去の経歴と現実が交錯するところがあり、じっくり読まないと中々頭に入ってこないのだが、訳者があとがきで文中で触れられているハービーの経歴を年代順にまとめてくれているのでわかりやすい。そこさえクリアしてしまえば、あとは作品世界に没頭すればいい。スパイという世界の表裏や非情さを描き切っており、結末まで何が一体本当のことなのかわからない。東側と西側、どちらが相手を振り回しているのか。読者は振り回されるばかりなのだが、それが心地よい。
 結末まで目を離せない一作。超大作の中にふさわしい。続編『沈黙の犬たち』があるので早く読みたいのだが、やはりこのシリーズはじっくりと時間をかけてよまないといけないようだ。