平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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D・M・ディヴァイン『災厄の紳士』(創元推理文庫)

災厄の紳士 (創元推理文庫)

災厄の紳士 (創元推理文庫)

 

  美人のお嬢様を相手にするのは慣れていなかった。でも、この“仕事”で失敗するわけにはいかない。ネヴィル・リチャードソンは、見た目は美男子だが根っからの怠け者。ジゴロ稼業でなんとか糊口を凌いでいたところ、さる筋からうまい話が転がり込んできた。今回の標的は、婚約者に捨てられたばかりの財産家の娘アルマ。わがままで、かつ気の強いアルマにネヴィルは手を焼くが、“共犯者”の的確な指示により、計画は順調に進んでいた。彼は夢にも思わなかった――とんでもない災難が、その後わが身に降りかかることを! 本格ミステリの名手ディヴァインが周到に策を巡らせた快作。(粗筋紹介より引用)
 1971年、イギリスで発表。2009年9月、邦訳刊行。

 

 妻子持ちで怠け者で頭の悪いジゴロのネヴィルが、何者かの指示に従い、金持ちの娘アルマに近づき、見事恋仲となって家に呼ばれる。アルマの父親は、かつての有名作家、エリック・ヴァランス。しかしアルマの姉、サラ・ケインはネヴィルに不審を抱く。
 フランスサスペンスにありそうな設定、展開。しかし中盤で事件が起き、そこからはフーダニットに切り替わる。描写がうまいから読めるし、展開が気にかかるんだけど、犯人が誰かどうかというより、この後どうなるんだろう、という意識のほうが強くなるのは何とも……。正直言って犯人なんて、どうでもいいと思ってしまうのは良いことなんだか、悪いことなんだか。
 事件が起きるまでのネヴィルによる一人称視点から、事件が起きた後の三人称視点に切り替わるところや、わざとらしい伏線とか、最後に犯人を突き止めるロジックとか、色々うまいなあと思うのだが、最後の動機がどうしても引っかかる。予想できたことだけど、実際に文章で読むと萎えちゃってしまった。なんか、最後の盛り上がる部分で肩透かしを食らった気分。
 何なんだろう、この読後感。緻密に組み立てられた作品だと思うんだけどね。