平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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越中詩郎・小林邦昭・木村健悟・ザ・グレート・カブキ・青柳政司・齋藤彰俊・AKIRA『平成維震軍 「覇」道に生きた男たち』(辰巳出版)

  誠心会館との抗争、選手会vs犯選手会同盟、WARとの対抗戦、頓挫した2部リーグ構想、そして、現場監督・長州力と俺たちの関係…“本隊”とは真逆の視点から90年代の新日本プロレスを紐解く。(帯より引用)
 2020年1月、刊行。

 

 武藤敬司蝶野正洋橋本真也の「闘魂三銃士」、さらに佐々木健介馳浩が出てきて、新日本プロレスの中心に躍り出て、長州力藤波辰巳ビッグバン・ベイダーなどと激闘を繰り広げる1990年代前半。旧世代と三銃士世代の間に挟まれて燻っていた中堅レスラーたち。しかしそんな彼らが、団体から見たら全くのアクシデントともいえる誠心会館との抗争から表舞台に出てきて、一大ムーブメントとなる。それが平成維震群。メンバーを見れば、かつてはメインに出ながらも、その頃は中堅と呼ばれて第三試合あたりで言い方が悪いがお茶を濁さざるを得なかったレスラーが多い。しかし昭和を生きたレスラーたちは、簡単には引き下がらなかった。隙があればトップに出ようとし、チャンスは見逃さない。小林邦明と齋藤彰俊の一騎打ちは、あまりにも殺伐としていて興奮したものだ。今の新日本プロレスはスポーツライクになったが、当時は創設者アントニオ猪木のころからの殺伐した雰囲気も時に求められていた。
 そんな時代を駆け抜けた男たちの証言がここにある。小林・斎藤・越中・青柳・木村・カブキ・AKIRAの順に書かれ、当時のことを証言している。考えてみると、最初から最後まで通して活躍したメンバーがいないことに驚く。リーダーだった越中にしても、途中長期欠場している。1990年代後半になると初期の輝きも薄れ、存在価値が見いだせなくなっているところもあるが、1992年の半選手会同盟から1999年の解散までの7年間、これだけ長期のユニットが活躍したのは、新日本プロレスでは初めてといっていいだろう。今でも「マスターズ」でその雄姿を見ることができるのが凄い。ファンたちにも忘れられないユニットなのだと思う。
 中身を読むと、当時の臨場感が伝わってくる。WINGでメインを張っていたとはいえ、プロレスラーのキャリアはほとんどない齋藤彰俊の緊張感が凄い。また生き馬の目を抜く様な当時の新日本で、戦いを求めてチャンスを逃さない小林邦昭はさすがとしか言いようがない。小林から見たら、新日本と全日本のレスラーの違いも興味深い。受けが最初の全日本と、攻めが最初の新日本の違いがよく出てきている。越中・小林と、本体のメンバーが対立したのがガチだった部分も、今読むと改めて感慨深い。若いレスラーたちから見たら、やっとメインで戦えるようになったのに、燻っていた面々がしゃしゃり出てきて、という印象なのだろう。また、特に小林が現場監督の長州力と深い関係にあったことから、選手会と経営者サイドとの疑心暗鬼な部分が興味深い。WARとの対抗戦の裏話も興味深い。また、長州力という男のレスラーを守ろうとする姿は心打たれる。色々言われたこともあったが、自分の団体のレスラーだけは守ろうとする姿は本当に美しい。
 カブキがプロレス生活で最も楽しかった、というのもわかる気がする。言い方は悪いが、メインは張れてもスターにはなれない職人レスラーと不器用なレスラーが集まったからこそ、ファンの支持を受けたのだろう。齋藤彰俊なんて、もっと表に出してもよかったと思うけれどね。当時はスターになれる面構えをしていた。
 メンバーの中で、後藤達俊小原道由が執筆陣に加わっていない。小原は一般人となったからだろうが、後藤の名前がないのは残念だ。後藤は今は行方不明で、プロレスラー仲間でさえも連絡がつけられない状況らしい。
 1990年代の黄金期の新日本の、闘魂三銃士たちとは違うもう一つの新日本プロレスを証言する貴重な一冊。できれば経営サイドからの証言も欲しかったが、それはいずれ書かれるだろう。