平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ロス・トーマス『五百万ドルの迷宮』(ハヤカワ・ミステリアスプレス文庫)

 フィリピン新人民軍の指導者を五百万ドルで買収し、香港へ亡命させろ――テロリズムの専門家ストーリングズのもとに大仕事がまいこんできた。彼は工作を手伝ってもらうため、中国人ウーとそのパートナー、デュラントら、海千山千のプロを極東に集結させる。それぞれの思惑が交錯するなか、五百万ドルをめぐる虚々実々のゲームが開始された! 巨匠の代表作。(粗筋紹介より引用)
 1987年発表。1988年9月、ミステリアス・プレス・ブックスより邦訳単行本刊行。1999年5月、文庫化。

 

 サスペンス小説の巨匠であるロス・トーマスの後期の作品。『大博打』に続くウー&デュラントシリーズ。
 いわゆるコン・ゲームものだが、登場人物が一癖も二癖もある者ばかりで、虚々実々な駆け引きが楽しい。自称中国皇帝位継承権主張者のアーサー・ケイス・ウー、傭兵のクインシイ・デュラント、詐欺師のモーリス(アサガイ)・オヴァビイ、テロリズム専門家のブース・ストーリングズ、元シークレット・サーヴィスのジョージア・ブルー。よくぞまあこれだけの人物を集めたものだ。
 もっと波乱万丈な展開になるかと思いきや、話は意外と淡々と進む。それでいて読者の目を引き付ける筆のうまさはさすがだ。登場人物たちが醸し出すユーモアは、そのまま作者の余裕を表しているのだろう。
 名人芸、とはこのことなんだろうなあと思う。素直に心地よさを楽しむ一作。