麻薬王のブレーンとして完璧な犯罪計画を立てる──おれにとって犯罪はビジネスだ。計画を売るだけ、実行はしない。今度の仕事は大物だった。裕福な不動産業者の一家を事故に見せかけて殺し、全財産を乗っ取るのだ。すべては順調だった。新聞記者に尻尾をつかまれそうになるまでは……究極のアンチ・ヒーロー、クイン登場。刺激に満ちた、新時代の犯罪小説。(粗筋紹介より引用)
1999年発表。2000年8月、邦訳刊行。
作者のシェイマス・スミスは北アイルランドのベルファストの労働者階級の出身。季節労働に携わりながら数年間をヨーロッパで過ごし、その後は北アイルランドで競走馬の飼育に携わっている。小説作法を独学で学び、本作でデビュー。英国推理作家協会賞最優秀処女長編賞にノミネートされた。
主人公のジェラード・クインは犯罪プランナー。麻薬王バディ・トナーのブレーンとして、犯罪計画を立てている。このクインの一人称で物語は進むが、このクインという人物がなんとも腹立たしい犯罪者である。冷酷非情に犯罪計画を立て、自分では手を出さない。鼻持ちならない自信家で、浮気は当たり前。本人はユーモアがあふれている口調で読者に語り掛けてくるが、気に食わないの一言。だが、目を離せない。
トナーの依頼でトム・ハセットの不動産会社乗っ取りを計画して実行するが、その一方ではルイーズとの浮気が妻のシンニードにばれ、息子2人を連れて家を出て行ってしまっている。息子2人を取り戻そうとするが、シンニードの姉で新聞記者のモリーが立ちはだかる。しかも不動産業者乗っ取りの方まで目を付けられる。うーん、どこにもこの主人公に惹かれる要素がない。悪役が主人公のミステリでも、少しは共感する部分がありそうなものだが、クインという人物に共感できるところは何一つない。
魅力がどこにあるのかさっぱりわからない作品だが、それでも面白く読んでしまうのは、作者の筆が巧いのかなあ。それとも、作者の想いがクインに込められているからだろうか。ただ、二作目を読みたいとは思わなかったが。