平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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森川智喜『スノーホワイト』(講談社文庫)

スノーホワイト (講談社文庫)

スノーホワイト (講談社文庫)

「真実を映し出す鏡」をもつ反則の名探偵(・・・・・・)襟音(えりおと)ママエは、舞い込む事件の真相は分かるが、推理は大の苦手。ある事件が縁で顔を合わせた探偵・三途川(さんずのかわ)(ことわり)が、窮地に陥れようと策を練っていることも知らず――。おとぎ話のような愛らしい世界で、鋭い論理バトルが展開される、第十四回本格ミステリ大賞受賞作。(粗筋紹介より引用)

2013年2月、講談社BOXより『スノーホワイト 名探偵三途川理と少女の鏡は千の目を持つ』のタイトルで書きおろし刊行。2014年、第14回本格ミステリ大賞受賞。2014年11月、文庫化。



この作者の本を読むのは初めて。とはいえ、第2作で本格ミステリ大賞を取るのだからよほどすごいのかと思って手に取ってみたが、何じゃこりゃ、と思わず言ってしまいたくなるような作品だった。

14歳の私立探偵襟音ママエと言う設定はまだしも、助手はグランピー・イングラムと言う小人。しかもこのママエ、「なんでも知ることのできる鏡」を持っているので、依頼者が話さないことまですべてを知ることができる、という超反則な技を持っている。じゃあ、どうやって「本格ミステリ」に持ち込むのか気になったが、なぜ探偵が依頼者の話さないことまで現場を調べずに知ることができるのかを依頼者に説明する、という点で一応論理の組み立てが必要となってくる。もっともその説明も鏡の受け売りなのだから、ダメダメ感極まりない。

「第一部 襟音ママエの事件簿」のCASE I ハンケチと白雪姫、CASE II 糸と白雪姫ではマジックで隠された腕時計の謎と、ショッピングセンターから帰ろうとして自転車が亡くなった謎を解く。そしてCASE III 毒と白雪姫で殺害予告と毒殺未遂事件に遭遇。そこで、前作にも登場した私立探偵の三途川理と、同じく私立探偵の緋山燃が登場してくる。この事件では、犯人が三途川理というトンデモ展開。前作を呼んでいないため全然わからなかったが、原題のタイトルに出てくる名探偵三途川理がここまで下種だと、もう何をやりたいのかさっぱりわからない。さらにふしぎな国の前王の妃、ダイナ・ジャバーウォック・ヴィルドゥンゲン夫人が登場し、次の王になれると思って鏡に聞いたら、一番ふさわしいのは前王と使用人の娘、マルガレーテ・マリア・マックアンドリュー・エリオットであり自分が二番目であることを知らされ、しかもそれが襟音ママエだというのだから、これ一体何の童話といった展開。

「第二部 リンゴをどうぞ」では、ダイナと手を組んだ三途川がダイナの鏡を利用しながらママエを殺そうとするコン・ゲーム。三途川がダイナも気付かなかった使い方をするところはさすがだと思うが、名探偵のはずの三途川なのに詰めが甘いし、間が抜けているし。対するママエは単なるぐうたらだし、小人のグランピーが駆けずり回るだけ。そもそも「なんでも知ることのできる鏡」を持っているのだったら、いくら未来は不確定とは言えもう少し周囲などを確認すればいいだろうし、そもそも成功するかどうかを聞けばいい。さらに鏡の最後の使い方はもはや"なんでも知ることのできる"じゃ済まないだろう、と突っ込みたくなるぐらいご都合主義な仕掛け。

最後の最後で一応謎解きは出て来るけれど、こんな粗い終わり方でいいのかと言いたくなる結末。よほどのひねくれ者じゃないと、楽しめないんじゃないか、これ。

なぜこれが本格ミステリ大賞なのか、さっぱりわからない。飛び道具も飛び道具。『白雪姫』そのものを本格ミステリに持ち込む発想自体はすごいけれど、作者のご都合主義が目立ち過ぎ、全然評価できない。それにしても、これ、三途川理のシリーズ作品。何が一体どうなったら、これがシリーズにできるのか、それだけは気にかかる。