
- 作者: 樋口有介
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2012/03/11
- メディア: 文庫
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2009年3月、東京創元社、創元クライム・クラブより書き下ろし刊行。柚木草平シリーズ第9作、長編第6作。2012年3月、文庫化。
なぜか美女ばかりに囲まれる私立探偵、“柚木草平”シリーズの(当時)最新作。作者によると、正統柚木ものは1997年の『誰もわたしを愛さない』以来12年ぶりとのこと。2000年に番外編『刺青白書』は出たが、注文は無くて執筆されなかったとのこと。それが創元推理文庫にシリーズ旧作が収録され、そこそこの売れ行きを見せたことから、気を良くして書いたと作者は書いている。確かに間に他作品を柚木シリーズに書き直した作品や短編集が入っているものの、正統なシリーズとしては久しぶりだから、力の入った一作となったのだろう。娘の加奈子、担当編集者の小高直海、不倫相手の吉島冴子、荒木町のバーのママ貴子、オカマバーのマスター武藤健太郎、警視庁の山川六助刑事といったレギュラーが総出演。別居中の妻・知子が電話だけで出てくるのはいつものことである。
小説の構成はいつもと同様で、美女が多い事件関係者に話を聞いていくうちに、柚木の頭の中で少しずつ事件全体の概要が見えてくるといったもの。柚木の言動にやや軟派なものがあるとはいえ、実際の行動は正調ハードボイルドと変わらない。事件の全体が見えてくる後半まで読者の興味を引っ張るし、事件そのものにはいつも悲哀が隠されているし、それを静かに表に浮かび上がらせる柚木の言葉が読者の胸に染み入ってくる。今回はいつもよりやや長いが、久しぶりの長編ということでかなり肩の力が入ったのかもしれない。そのせいか、被害者となった二人に救いがあまり見られなかったことが少々残念である。だが、面白さは天下一品。本作だけでも十分面白し、本作で柚木シリーズに興味をもったのなら、第一作から読み返してもらいたい。
それにしても、シリーズの依頼がしばらくなかった、というのは編集者も見る目がない。東京創元社も、よく復刊してくれたものだ。それにしても樋口有介は、デビュー当初は直木賞に最も近い位置にいる作家と言われながらも、今一つブレイクしないままここまで来てしまったのは、なぜなのだろうか。本シリーズ以外にもいい作品はいっぱいある。なぜ売れないのか、ミステリ界七不思議の一つといったら大袈裟だろうか。