平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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有栖川有栖『狩人の悪夢』(KADOKAWA)

狩人の悪夢

狩人の悪夢

人気ホラー小説家・白布施に誘われ、ミステリ作家の有栖川有栖は、京都・亀岡にある彼の家、「夢守荘」を訪問することに。そこには、「眠ると必ず悪夢を見る部屋」があるという。しかしアリスがその部屋に泊まった翌日、白布施のアシスタントが住んでいた「獏ハウス」と呼ばれる家で、右手首のない女性の死体が発見されて……。(粗筋紹介より引用)

『文芸カドカワ』2016年5月号〜2017年1月号連載。加筆修正のうえ、2017年1月、単行本刊行。



火村英生シリーズ長編。結果的にクローズド・サークルものに近くなった状況下において、本格ミステリならではのロジックが楽しめる作品。せっかくの「悪夢」「狩人」というキーワードがうまく生かされてなかったのは残念だが、なぜ手首が斬られていたかという推理は圧巻。さすが有栖川、と言っていいだろう。犯人と動機にもう少し意外性があるとよかったのだが、それは無いものねだりか。事情を話せば殺人を犯さなくても相手は分かってくれたんじゃないか、という気がしなくもないが。

ファンからしたら「俺が撃つのは人間だけだ」「あなたにとっては喧嘩かもしれませんが、私にとっては“狩り”です」といった火村の言葉に騒ぐのだろうなと思ってしまう。有栖川の巧いところは、さり気なく殺し文句を用意しているところという気がしてきた。

連載のせいかもしれないが、前半部分が少々長い。キャラクター小説の部分も大事にしているからだろう。とはいえ、もうちょっと削ることができれば、もっとすっきりとした仕上がりになったに違いない。それはそれとして、面白かった本格ミステリ、と言っていい。本格ミステリの安定した面白さを作り出す、という部分では随一だと思う。