- 作者: 有沢創司
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1992/12
- メディア: 単行本
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1992年、第5回日本推理サスペンス大賞受賞。同年12月、単行本刊行。
作者は産経新聞記者で、受賞当時は論説委員長。後に本名の八木荘司名義で古代の日本を扱った作品を多数執筆している。
ソウルオリンピックが舞台で、新日報の社会部記者が暗号を残して行方不明となる。同期生で編集庶務室から出張している武尾が、語学専門学校の日本語科に籍を置く通訳のミス・ユンとともに事件の謎を追う。背後にはカール・ルイス対ベン・ジョンソンの世紀の対決が絡んでいた。
実際の出来事をそのまま本筋に組み込むというのはちょっとした違和感があるものの、筆そのものは軽快。現役記者だけあって文章は達者だし、謎の提示も悪くない。日本、韓国、アメリカの裏事情が絡み合う展開もなかなか。読者を惹きこむには十分の素材と、読者を納得させるだけの料理の腕がここにあった。受賞自体は文句なしだろう。
とはいえ、不満が多いことも事実。一番の問題点は、大事なデータがミス・ユンから常に提供されること。少しぐらい操られていることに気づけよ、主人公。そもそもこの主人公、友人が誘拐されてせっぱつまっているのに、ミス・ユンに交際を申し込むって、どんな余裕だ。暴力団による五輪賭博で、ルイス1.4倍、ジョンソン86倍の非常識なオッズがついている時点で、何か裏があると思わない客がいるほうが不思議だ。普通だったら舞台裏に何かあると思って、誰も賭けなんかしないぞ。あと、運動部長の藤堂。スクープを見送ろうなんて、こんな新聞記者いないよ。夕刊紙記者の深見って、必要ないだろう。
結局作者のご都合主義で物語が進む点が大いに不満。主人公も元々新聞記者なんだから、舞台がソウルとはいえ、もう少し自分で追いかけてほしかった。