平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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月原渉『太陽が死んだ夜』(東京創元社)

太陽が死んだ夜

太陽が死んだ夜

ニュージーランドの全寮制女子校に編入してきたジュリアン。彼女は同校の卒業生である祖母が遺した手記と、古い手紙を携えていた。手記には学院の教会堂で起こった残虐な殺人事件が、手紙には復讐をにおわせる不吉な一文が書かれていた。そして、ジュリアンと6人の同級生に、ふたたび酷似した状況で、悲劇がふりかかる……。これは41年前の事件の再現なのか? 少女たちを脅かす、封印された謎とは? 第20回鮎川哲也賞受賞作。(東京創元社HPより引用)

2010年、第20回鮎川哲也賞受賞。同年10月、単行本化。



第二次世界大戦中にニュージーランドで起きたフェザーストン事件が事件の遠因となっており、冒頭で捕虜兵のアケチ・コゴロウと矢神のやり取りが繰り広げられ、その後コゴロウが脱走し、クライストチャーチ郊外にある全寮制のラザフォード女子学院の教会堂に逃げ込んだところを生徒のケイト・グレイが匿う。ところが密室で女子生徒が殺害され、しかも男性の精液がかかっている。女子寮でいる男性は、コゴロウのみ。しかもコゴロウは失踪している。ケイトは自分が事件を招いてしまったのかと悩む。

その41年後、15歳のジュリアンは祖母ケイトと同じ女子学院に入った。親友のバーニィ、日本からの留学生ベル、ルームメイトのキャサリン、美少女のジェニファ、良家の子女である友人のロティ、神秘的な雰囲気を持つイライザの7人が伝統行事である教会堂のお籠もりに立候補した。7人と寮母のシスター・ナシュが橋の向こう側にある教会堂に寝泊まりすることとなったが、初日の夜中、イライザが密室の部屋の中で腹を引き裂かれて殺されていた。男性の精液こそ無かったが、41年前と同じ状況で……。しかも堀の水の細工により橋は壊されており、皆は教会堂のある離れ小島に取り残された格好となった。さらにキャサリン、ロティ、シスター・ナシュが殺された。

設定自体はゾクゾクする内容。舞台も人物配置も悪くない。だが読んでいるうちに緊張感がなくなり、話が淡々と進むため、サスペンスの部分が物足りない。登場人物が少女たちなのだから、もう少しパニックに襲われてもいいと思うのだが。そんな登場人物たちの冷めた視線がそのまま物語に反映されてしまったかのようで、かなり残念。外国の女子寮の寄宿舎における嵐の山荘ものという設定が勿体ない。それと謎解きは最後にまとめてやってほしかった。とにかく終わりの方はダラダラした内容で、読んでいても苦痛。これは完全に構成ミスである。

密室の謎自体はたいしたことないが、それはおまけみたいなものだから別に構わない。ただ、もう少しフーダニットの部分を考えてほしかったところ。あとこの作品の問題点は動機が弱いところか。殺人に手を出すとまでは考えにくい動機だ。それと首をひねるのは、ケイトが残した手記かな。41年前のお嬢様があれを簡単にわかっちゃ駄目だろう。もしかしたら作者による手掛かりなのかも知れないが、あまりにも安易すぎて、これで事件の構造がある程度読めてしまった。

逆に感心したのは、「コゴロウ」の使い方。アケチ・コゴロウなんて書かれたら日本の読者はすぐにあの人を思い浮かべるわけで、ファンの暴走かと思っていたら、これはいい方向に裏切られた。それとエピローグの部分も悪くない。

ニュージーランドにおけるメソジストの寄宿舎というライトノベルの雰囲気を持ちつつも、あまり知られていない戦争当時のエピソードを絡めた構想力は悪くないのだが、それに筆が追いつかなかった作品。ただ、同時受賞の『ボディ・メッセージ』に比べると、こちらの方が断然いい。島田荘司がゴリ押ししなければ、単独受賞だったと思う。