平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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白金透『あなた様の魔術(トリック)はすでに解けております -裁定魔術師レポフスキー卿とその侍女の事件簿-』(電撃文庫)

 裁定魔術師(アービトレーター)――それは魔術師たちの探偵にして、判事にして、処刑人。数奇な運命からその任に就いたのは、『魔力なし(マギレス)』の侍女リネットとレポフスキー家当主として君臨するマンフレッドだ。主従でもある比翼の探偵たちは、かけがえのない使命を果たすため、次々と邪智暴虐の魔術師どもを追いつめていく!
「あなた様の魔術(トリック)はすでに解けております」
「この小娘が明らかにしたとおりだ。魔術師よ、天秤は汝の罪に傾いた」
 これは魔術と謎を論理で暴き、邪悪な魔術師を圧倒的な力で裁く探偵たちを追った事件簿である。(粗筋紹介より引用)
 『電撃ノベコミ+』に掲載された同タイトル作品を加筆修正し、2025年5月刊行。

 炎に包まれる屋敷の傍で、レポフスキー家のメイド・リネットと、レポフスキー家の新しい当主となったマンフレッド・E・レポフスキーが契約を結ぶ。「開幕 そして二人だけが残った」。
 病に倒れた偉大なる魔術師アンゼル・ネイメスは、後継者に死霊魔術師のハリー・ポルテスを正式に指名し、名を継がせることにした。ネイメスの一番弟子であるガイ・レフェンスはハリーが住む山間にある灰色の塔を訪ねる。後継の座が欲しいガイは、隙を付いてハリーを短剣で殺してしまう。しかし偶然見つけた手紙の差出人がマンフレッドであることを知り、慌てるガイ。しかも約束の時間はもうすぐ。このままでは裁定魔術師により、一番重い罪の一つである「魔術師による魔術師殺し」で捌かれてしまう。そこでガイは自分がハリーと偽って、裁定魔術師と相対することとした。そこに現れたのは、リネットであった。「第一章 死霊魔術師(ネクロマンサー)のダイイングメッセージ」。

 魔術師スペンス一門の現当主、四代目クラーク・スペンスは、召喚士としては一流であったが、師匠としては三流であった。師匠殺しは死刑以上の罪だが、師弟間のトラブルに裁定魔術師は基本的に立ち入らない。弟子入りして15年が経つモーガンはもう限界であった。隙をついてクラークに魔術封じの首輪をかけ、ロープで引っ張り絞め殺した。モーガンはクラークのマントを使い、死亡時間を誤魔化すことでアリバイを作った。「第二章 召喚師(モナー)の不在証明」。
 ホムンクルスの研究者である魔術師のラモーナ・ファルコナーは、2年前から美男子の魔術師クライド・ランドールと同居してホムンクルスの研究を続けていた。ある日の夜明けも間近、ラモーナがまだあかりのついているクライドの部屋を覗くと、クライドは殴り殺されていた。クライドのホムンクルスである「セカンド」がクライドを殺したと聞き、逆上したラモーナは「セカンド」を殺してしまった。しかしクライドは死ぬ直前、裁定魔術師を呼んでいた。そして現れたのは、裁定魔術師補佐の家系ベニストン家の長女であり、マンフレッドの従姉妹にあたるダニエラ・ベニストンだった。「第三章 魔女のミスディレクション」。
 ダニエラは問う。先代の裁定魔術師、フレデリックはどうなったのか。なぜ屋敷は燃えたのか。マンフレッドは自らの生い立ちから、いかにして自分が当主になったかを語り始める。「第四章 裁定魔術師(アービトレーター)ミッシング・リンク」。
 大陸でも珍しい魔術師の街、ジェズリール・タウン。フォーベス家のの一族とその弟子たちが支配している。バーナビーとパティは街の中に消えてゆく。「閉幕 黒魔術師(ウォーロック)と信頼できない語り手」。

 アニメ化も決まった『姫騎士様のヒモ』シリーズ(と言われても全然知らないので、申し訳ない)の作者の新シリーズ。元々は別名義でネットに発表していた短編を、世界観やキャラ設定を大幅に練り直した作品とのこと。
 作者が言うようにライトノベルでは珍しいのかどうかはわからないのだが、魔法界を舞台にした倒叙ミステリの連作短編集である。魔法界を舞台にした本格ミステリ自体、成立させるのは非常に難しいと思っている。嫌な言い方をすれば、魔法のルールを作者に都合よく設定すれば、何だってできるじゃないか、と突っ込んでしまうのだ。目の前にありながらも見落としてしまうミスディレクションを、魔法界という舞台に設定するのが非常に難しいと思う。そんなところに、『刑事コロンボ』や『古畑任三郎』のような倒叙ミステリを書いたというのだから、どんな作品になったのかは非常に気になってくる。
 しかし読み終わってみると、ちょっと微妙。犯人が使ったトリックや、犯人が見落としたミスの描写が、どうしても説明不足に感じてしまう。特に第二章の魔法界ならではのトリックは、自分の想像力欠如かも知れないが、読み返してみてもどうしても理解できない。また探偵役のリネットが指摘する犯人のミスについても伏線が全然張られていないのでは、面白さが半減である。
 シリーズの肝となるストーリーはあるので、それを核にしながらシリーズを続けるのであろうが、もうちょっと背景についての描写を増やしてほしいな。それとも、魔法界ならこれはもう常識だろう、という部分なのかな。それだったら経験値のほとんどない私は、もう読めなくなってしまうが。