平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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佐島佑『ウラミズ』(角川ホラー文庫)

ウラミズ (角川ホラー文庫)

ウラミズ (角川ホラー文庫)

怪しい健康食品会社に勤める真城は霊が視えてしまう特殊体質。気味の悪い霊の出現と毎日の仕事にウンザリしていた。そんなある日に出会った早音は、なんと霊を水入りのペットボトルに封じる不思議な力を持っていた。その水から強力な霊を発生させる「ウラミズ」を作りだした2人は、新たなビジネスを始めようとするが、思わぬ邪魔者や真城に接近する妖艶な美女・狐寝子が現れ……。第20回日本ホラー小説大賞読者賞受賞作! (粗筋紹介より引用)

2013年、第20回日本ホラー小説大賞読者賞受賞。改稿の上、2013年9月、角川ホラー文庫より発売。



著者は劇団を立ち上げ、放送作家シナリオライターとして活動していたとのこと。やや軽めながらも読みやすい文章やテンポの良い展開はそのお陰だろうか。

霊を水入りのペットボトルに詰めて売り出すというアイディアは面白かったが、評判になる前にヤクザが出てくる展開は安易すぎて残念。除霊の部分などもっとふくらませてもよかったと思う。

作品の問題点としては、中心人物が誰かよくわからないところ。中盤までは真城と早音にウェイトが置かれていたのに、それ以降は狐寝子の比重が大きくなるも、最後は誰がヒロインかわからなくなる。早音は途中から影が薄くなるし、狐寝子はいったい何をやりたかったのかよくわからない。真城はただふらふらしているだけだし……。作者が一体何をやりたかったのかが分からない、というのが正直なところである。安っぽいメロドラマで終わってしまったのが勿体ない。「ウラミズ」そのものも、もっとうまく使うことができたんじゃないかなあ。

結局、アイディア倒れで終わってしまった作品。題材はよかったので、料理の腕さえよければもっと面白くなっただろう。ただそういう不満点こそあるものの、そこそこ面白く読むことはできる。つまり、作者にはそれだけの腕があるのだ。面白い題材と調理法さえ見つければ、書き続けることができる作家だとは思う。量産ができるタイプに見えるし。