平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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伴名練『少女禁区』(角川ホラー文庫)

少女禁区 (角川ホラー文庫)

少女禁区 (角川ホラー文庫)

15歳の「私」の主人は、数百年に1度といわれる呪詛の才を持つ、驕慢な美少女。「お前が私の玩具になれ。死ぬまで私を楽しませろ」親殺しの噂もあるその少女は、彼のひとがたに釘を打ち、あらゆる呪詛を用いて、少年を玩具のように扱うが…!? 死をこえてなお「私」を縛りつけるものとは――。哀切な痛みに満ちた、珠玉の2編を収録。瑞々しい感性がえがきだす、死と少女たちの物語。第17回日本ホラー小説大賞短編賞受賞。(粗筋紹介より引用)

2010年、「遠呪」で第17回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞。タイトルを「少女禁区」と改題し、他1編を収録し、2010年10月刊行。



作者は京都大学SF研究会出身。在学中に応募した作品とのこと。

受賞作「少女禁区」なのだが、世界観の説明がほとんどないので、作品背景を把握するのに手間がかかる。というか、説明を無視して話が進むので、作品に没頭することができない。雰囲気自体は悪くないのにもったいない。それでも、異世界に行った少女とのやり取りというのは結構良いアイディアだと思った。キャラクター設定もよい。二人のつながりもよく描けている。「呪詛の才」をもっと生かしてほしかったところ。あえて短い枚数でまとめたから、舞台の説明が不足しているのだろう。タイトルについてはあまりにも陳腐だと思った。原題の「遠呪」の方がまだよい。ただ、「ホラー」を期待すると思い切りすかされる。

たった20年で小さな会社から世界を牛耳る大財閥を作りあげた鏑木陶彌。娘の夕乃と息子の相馬は小さいころから屋敷に閉じ込められ教育を徹底的に施された。2年前に父は死んだが、14歳の姉と跡取りである12歳の弟は今も父に縛り付けられている。そんな姉弟が、専属医師の宮腰の手により、屋敷から逃走。鏑木に対抗できる企業を作りあげるための資金稼ぎとして、自らの過去の体験をサイネットに配信することとしたが、それはだんだんエスカレートしていった。「chocolate blood, biscuit hearts.」。

サイネットとは、他人の体験を五感のうち四感まで疑似体験できるネットワークシステム。こちらも世界観の説明が不足しており、把握するのに一苦労。逃亡から先の姉弟のやり取りやオチは、既視感バリバリ。最後はダラダラとなりそうなところを何とか踏みとどまっているが。

どちらも同人誌の影響が強いんじゃないだろうか。最近の同人誌はよく知らないが、昔はこんな感じだった記憶がある。歪んだ愛情の描き方は、一つ間違えるとエロ小説に堕落する。その一歩手前で立ち止まっており、妖しい世界観は良くできている。次はもう少しオリジナリティのある話を読んでみたい。