平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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大山尚利『チューイングボーン』(角川ホラー文庫)

チューイングボーン (角川ホラー文庫)

チューイングボーン (角川ホラー文庫)

ロマンスカーの展望車から三度、外の風景を撮ってください――”原戸登は大学の同窓生・嶋田里美から奇妙なビデオ撮影を依頼された。だが、登は一度ならず二度までも、人身事故の瞬間を撮影してしまう。そして最後の三回目。登のビデオには列車に飛び込む里美の姿が……。死の連環に秘められた恐るべき真相とは? 第12回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。(粗筋紹介より引用)

2005年、第12回日本ホラー小説大賞長編賞受賞。同年11月、角川ホラー文庫より刊行。



主人公の原戸登は大学卒業後、居酒屋チェーン店で昼から夜中までバイトをしている就職浪人。父親と二人暮らしで母親は死亡、犬のサリーを飼っている。友だちもなく、冴えない男。そんな男が、大学の同窓生から頼まれてロマンスカーから撮影中、人身事故に遭遇。これが中盤まで3回続くのだが、同じパターンの内容が繰り返されるだけで、読んでいても退屈。心理描写や生活風景がやけに細かく書き込まれており、苛立ちだけが募ってくる。もうちょっとテンポよく描けなかったかな。

後半で撮影の理由が明かされるのだが、はっきり言ってつまらない。作者が描写しようとした「怖さ」はそこではなく、それに携わろうとする主人公の心理だったのだろうが、はっきり言って不快感しかない。多分作者が狙った方向とは別の不快感だろう。言っちゃ悪いが、短編に仕上げた方が良かったと思う。歯医者のシーンとか、はっきり言って不要。

描写だけはうまいと思ったけれど、ホラーとは思えなかった。選評で林真理子が「純文学系の新人賞に応募しても、高い評価を得られるに違いない」と書いているが、つまらないと言われるだけだろう。荒俣宏が「カメラらを向けると事故がおきるというパターンが何度も同じ調子では、飽きる」と評したのが最も的確だと思った。

この年の大賞受賞は恒川光太郎「夜市」。そりゃ、格が違うわ。