平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

氷川透『密室は眠れないパズル』(原書房)

密室は眠れないパズル

密室は眠れないパズル

エレベーターの前で胸を刺された男は、「常務に、いきなり刺された」と、犯人を名指しして絶命した。“殺人犯”は、エレベーターで無人の最上階へ向かうところを目撃される。電話は不通、扉も開かない。ビル内には犯人を含めて九人だけ。犯人はなぜ逃げようとせず、とどまっているのか――。やがて最上階のエレベーターは下降を始めた。そこには、背中を刺され、血まみれで息絶えた常務が倒れていた。――いったい誰が、いかなる方法で殺したのか。常務が犯人ではなかったのか。積み重ね、研ぎすました論理の果てに、行き着くのは八人の中の一人。新鋭が読者に挑戦する正統派長編本格推理。(粗筋紹介より引用)

1997年、第8回鮎川哲也賞最終候補作。応募時タイトル「眠れない夜のために」。島田荘司の高い評価を得、改稿改題のうえ、2000年6月に単行本で刊行。



まあ氷川透なので、論理を前面に押し出した作品になっているだろうとは思ったけれど、ここまでロジックしかないとは思わなかった。小説というよりは、長い長いパズルだね、これは。論理的に突き詰めていくと、回答はこれ一つしかないのかもしれないし、他の回答がある可能性もあるかもしれないが、そこまで考える気力も根性もまったくなし。パズルが出て、どう解かれるかを見るだけ(読むですらない)。まあ、刺された営業部次長が常務を名指しするところの推理はかなり苦しいとは思うが。ここまで来るとロジックではなくて物語を作るだけ。小説としての面白さは何一つなかった。

この年の受賞作は谺健二『未明の悪夢』。他の最終候補作は城平京『名探偵に薔薇を』、柄刀一『3000年の密室』とまあ、いずれも出版されていることから考えると豊作だったと言えるのかもしれない。ただ、どれを選ぶと言ったら、間違いなく谺健二ですね。