- 作者: 貴志祐介
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2011/09/23
- メディア: 文庫
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『野性時代』に2005〜2007年掲載。2008年3月、単行本刊行。2011年9月、文庫化。
築100年の旧家、玄関には内側から鍵がかかっており、玄関と勝手口は100m先のリンゴ園で働いていた人物が誰も来なかったと証言。唯一開いていた1階の窓の外は、雨でぬかるんだ草地であり、足跡がなかった、という完全密室状態。第1発見者である父親の容疑を晴らそうとする青砥純子。「狐火の家」。
事故死した友人の桑島からペットを譲る約束をしてもらっていたが、相続人である古溝の妻・美香が渡そうとしないというトラブルを古溝から相談された純子。美香に掛け合い、受け取る予定の3匹のペットを渡すと言うことで話がついたが、事故死したアパートの部屋に行ってみると、そこにいたペットとは毒蜘蛛。その部屋は蜘蛛を飼うための専用の部屋であり、桑島は鍵のかかった部屋の中で、毒蜘蛛に噛まれて死んだという。警察は事故死と判断したが、純子は他殺だと直感し、榎本に相談する。「黒い牙」。
ビジネスホテルの一室で、ドアにチェーンがかかった部屋の中で殺害された、将棋プロ棋士の竹脇伸平五段。鴻野刑事は外からチェーンが掛けられるかどうかを、榎本に尋ねるが、答えは不可能。しかし、犯人らしき人物が鍵を掛けていたのに、なぜチェーンを掛けたのかが不明だった。将棋ファンの榎本は、竹脇の恋人だった、元女流名人で将棋界のアイドル、来栖奈穂子三段と出会い、調査を開始する。「盤端の迷宮」。
『硝子のハンマー』で純子と知り合い、現在は劇団「土性骨」の劇団員である松本さやかは、座長のヘクター釜千代が一升瓶で殴り殺された事件の犯人にされるかもしれないと、純子に相談する。純子は現場を訪れ、アリバイのない劇団員たちと遭遇。団員全員が、動機のある2枚目俳優・飛鳥寺鳳也が犯人だと名指し。しかし、さやかや特定人物以外には飛鳥寺も含め必ず吠える番犬が、事件のあった夜には吠えていなかった。「犬のみぞ知る Dog Knows」。
「防犯探偵・榎本シリーズ」の第2作。いずれも密室殺人事件の謎を解く話だが、謎解きも調査も淡々としか進まないから、読み終わってみると物足りない。事件が起きました、密室でした、榎本が謎を解きました、ハイおしまい、というだけの作品集でしかない。いくら短編とは言え、もう少し登場人物や背景を書き込んでもいいだろう、と思う。
「狐火の家」は書き込めばもっと面白くなっただろう。第二の殺人については、手を出す必要はなかった、という気もする。
「黒い牙」は、蜘蛛嫌いの人は読まない方がいい、というぐらい蜘蛛の描写だけは気持ち悪く書かれている。実際には無理だと思うが、よくこんなトリックを考えたものだとは思う。気持ち悪い殺人トリックという意味では、過去のミステリと比較してもナンバー1だろう。
「盤端の迷宮」は、ちょっと時代を先取りしすぎたか。事件の動機の方は面白かったが、肝心の密室の謎は今ひとつ。チェーンの解釈については、無理がある。
「犬のみぞ知る Dog Knows」はユーモアタッチで描かれた、シリーズとしては異色の作品。ただ、ユーモア、というよりは悪のり、と言った方が正しいな。読んでいて気分が悪くなってくる。
本短編集では、弁護士の純子が無能に書かれすぎていて、残念。榎本ともうちょっとやり取りができる程度には優秀だったと思ったのだが、1作目を読む限りでは。この辺も、淡泊さを感じた原因かもしれない。
密室は考えればいくらでも考えられるのだな、と思わせた一冊。シリーズファンならいいだろうが、シリーズと言うことを無視してミステリ短編集として読んでみると、物足りなかったが残念だ。ただのトリック披露集で終わっている。