平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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高木彬光『神津恭介、犯罪の蔭に女あり』(光文社文庫 神津恭介傑作セレクション2)

台風の影響で強い風が吹く街中を歩いていた恭介は、美人劇場というストリップ劇場のポスターに「死」という文字が付け加えられていたのを見つけた。気になった恭介は、そのポスターが貼られていた廃墟の映画館に入ると、女性の絞殺死体を発見する。それは美人劇場の踊り子であるストリッパーだった。「死美人劇場」。

東洋新聞社会部記者の真鍋雄吉は、殺人事件があったという電話を受け取り、実際に死体を発見する。数日後、犯人を見たという女性の証言を記事にしたまではよかったが、それは数日前、東洋新聞の人生相談に投稿した嘘ばかりつく女性であった。「嘘つき娘」。

戦前に起きた三つの未解決殺人事件で、同一人物と思われる男性が姿を現していた。その風貌から、捜査当局は彼を青髭と呼んでいた。そのことを雑誌に書いた松下研三は、浅草のレビュー劇団から上演したいという依頼を受ける。その上演初日、劇団の主演女優が舞台で斬殺された。「青髭の妻」。

渋谷の酒場で飲んでいた松下研三は、追いかけられていると飛び込んできた女性をアパートまで送っていく。その帰り道、持っていたカバンの中に拳銃が入っていたことに気付く。次の日、兄である捜査一課長の要請で恭介と研三は女優殺人事件の捜査に加わる。その帰り道、昨日の出来事を研三から聞いた恭介は興味を示し、アパートを訪れるが、そんな女性は住んでいなかった。「女の手」。

定期演奏会の帰りに喫茶店でコーヒーを飲んでいた恭介の前に、見知らぬ女性が座る。女性は恭介が夕刊を読んでいるのを見ると、自分のコーヒーカップにダイヤの指環を落とし、恭介のカップと入れ替えて出て行った。恭介は追いかけて女性を問い詰めるが、後ろからクロロホルムを嗅がされ眠りこける。目が覚めたところは、女性がつぶやいた銀杏屋敷で、そこでは4年前に持ち主の女性とその恋人がゆくえ不明になっていた。「ヴィナスの棺」。

恭介は名古屋駅から研三がいるホテルまで行こうとタクシーに乗ったが、そこへ女性が駈け込んで助けてほしいと訴える。一緒にタクシーに乗り、自分だけ先にホテルで降りたが、間違えて女性のボストンバックを持っていった。そのバックには血痕が残っていた。「血ぬられた薔薇」。

1949年から1955年に発表された作品をまとめたオリジナル短編集。2013年5月刊行。



神津恭介作品の中から、女性にまつわる短編6作品を収録した傑作セレクション……と謳っているのだが、うーん、これのどこが「傑作」なんだ? なんでまた、通俗作品ばかり集めたのだろう。神津作品なら、「わが一高時代の犯罪」みたいな名作が残されているじゃないですか。「挽歌」みたいな神津の過去話みたいな作品も残っている。この辺は、神津恭介の過去編あたりをまとめるつもりなのかな。まあ、早く次を出してほしいもの。
収録された6編は、いずれも神津の推理を楽しむというよりも、通俗的な作品展開や事件動機を楽しむ作品。本格推理小説を楽しみたい、という人には向かないセレクションである。それにしても、山前譲の草食系男子を絡めた解説はやめてほしかった。だいたい、神津恭介は草食系男子でもなんでもないだろう。