平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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高木彬光『邪馬台国の秘密 新装版』(光文社文庫)

邪馬台国の秘密 新装版 高木彬光コレクション (光文社文庫)

邪馬台国の秘密 新装版 高木彬光コレクション (光文社文庫)

邪馬台国はどこにあったか? 君臨した女王・卑弥呼とは何者か? この日本史最大の謎に、入院加療中の名探偵・神津恭介と友人の推理作家・松下研三が挑戦する。一切の詭弁、妥協を許さず、二人が辿りつく「真の邪馬台国」とは? 発表当時、様々な論争を巻き起こした歴史推理の一大野心作。論拠を示したエッセイを併せて収録。(粗筋紹介より引用)

1972年11月より刊行された「高木彬光長編推理小説全集」全16巻・別巻1(光文社)のうち、第15巻『都会の狼』とともに収録される『新作B』として書き下ろされたもの(ちなみに『新作A』は『新曲地獄篇』)。1973年12月、カッパ・ノベルス(光文社)より先行発売。1974年1月、全集版刊行。その後、初歩的なミスの修正や指摘に対する大幅な加筆改稿がなされ420枚から600枚になった改稿新版が1976年9月、東京文藝社より刊行。その後、さまざまな媒体で出版。本文庫は2006年10月刊行。高木彬光コレクション最後の作品。



久しぶりに神津恭介が登場し、『成吉思汗の秘密』以来の歴史の謎に対するベッド・ディテクティヴに挑む。カッパ・ノベルス版は半年で35万部となるベストセラーとなった。1974年には『小説推理』紙上で松本清張との「論争」が交わされるなど、話題に事欠かない作品である。古田武彦の『「邪馬台国」はなかった』との類似も色々と指摘されている。

本作品は、急性肝炎で入院した神津と、友人の松下研三が邪馬台国の謎を解く話である。登場人物は二人だけ。本作品では松下研三が博覧強記ぶりを発揮し、調べたことを逐一覚えているという状況。そしてそれを基に神津が推理によって邪馬台国の位置を特定するのだが、この手の歴史の謎に興味が無い人にとっては少々退屈。読んでいて、はー、なるほどね、とは思うものの、これが「真実」かどうかは誰にもわからないし、「推理」に都合の悪い部分を載せていなくても気付かない。そして最大の難点は、邪馬台国らしき遺跡が見当たらないこと。どこか、本格推理小説の欠点らしきところが本作にも表れていると思う。小説なら「推理」で恐れ入るのだが、現実なら「証拠」が必要。小説ではそこまで書かれていないことが多い。そして本作も、推理が正しいと言える証拠が無いのである。だから、どことなく胡散臭さを感じてしまう。だから、数多とある邪馬台国物の一つと思えば、それでいいと思う。

本作品が退屈と思える部分の一つに、『成吉思汗の秘密』にはあった人間ドラマがない点がある。本作品は純粋に邪馬台国の謎を解く話しかない。まあ、神津と松下のやり取りにくすっと笑うところはあるが、それだけ。昔馴染みである彼らの絆の深さが偶に見えるのだが、そのあたりをもっと書いてほしかったというのは二人のファンだからだろうか。