平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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高木彬光『神津恭介、密室に挑む』(光文社文庫 神津恭介傑作セレクション1)

青森の旧家で当主の双子の弟が、幽霊が出るという噂のある離れで絞殺された。離れの周りは、被害者の足跡しかなかった。「白雪姫」。

「もうすぐ月へ帰る」という美人令嬢が満月の夜、松下が一瞬目を離したすきにホテルから姿を消してしまった。本当に月へ帰ってしまったのか。「月世界の女」。

戦前は女魔術師が住んで姿を消したという伝説のある鏡の部屋から当主の妻が、本人の予言通り姿を消す魔術を見せた。そして家の外で叫び声が上がり、妻が殺害されていた。「鏡の部屋」。

レストランで食事中の神津と松下の前に、四次元に足を踏み込んだという男が現れた。その男の予告通り、密室殺人事件が起きる。男には鉄壁のアリバイがあった。「四次元の男」。

影なき女の予告通り、まったく同じ状況で連続密室殺人事件が発生する。悪徳高利貸し、その秘書、著名な探偵。被害者全員に接点がある人物はいなかった。「影なき女」。

新興財閥の愛人である妖婦、八雲真利子が伊豆のホテルへやってきた。財閥当主だけでなく、二枚目俳優と美男子流行歌手という鳥巻きを連れて。ホテルへ送られてきたトランクの中には、胸にナイフの刺さった真利子そっくりの蝋人形が届けられた。ホテル支配人は、別名で泊まっていた神津恭介に事件の謎解きを依頼する。しかし真利子は蝋人形と同じようにナイフで刺されて殺された。密室の中で。「妖婦の宿」。

眉目秀麗、頭脳明晰な名探偵、神津恭介の事件簿の中から、密室に挑んだ6編の短編を収録。



神津恭介や高木彬光について今更何かを描く必要はないだろうが、帯の「イケメン、インテリ、エリート」と、スカイエマのカバーイラストはどうにかならなかったのだろうか。イラストレーターに罪はないが、やっぱりイメージが合わないなあ。この手のイラストに、今時の言葉を使った宣伝文句。何か間違っている気がすると思うのは、自分が古い人間である証拠だろうか。

神津の短編はほとんど読んでいただろう、などと勝手に思っていたが、「鏡の部屋」「四次元の男」は初めて読んだ(か、全く記憶がないか)。

名作「妖婦の宿」「影なき女」は文句なし。特に「妖婦の宿」は戦後本格ミステリ短編のベストに入れたいぐらいの傑作。一番トリッキーな「白雪姫」、とリックよりもその幻想的な拝啓が印象的な「月世界の女」も悪くない。ただ、「鏡の部屋」「四次元の男」は今一つ。特に「四次元の男」は警察が見つけないことが不思議なくらい。個人的には、密室は単純だけど他の殺人事件の謎が秀逸な「殺人シーン、本番」の方を選んでほしかった。

今の若い読者がこれを読んでどう思うのだろう。古いと切り捨ててしまうのか、面白いと思うのか。色々と聞いてみたい気がする。